神殺しのクロノスタシス2
…まぁ。

少なくとも俺よりシルナの方が、見たくないもの見せられたんだろうな。

多分…。

「…久し振りに、故郷に帰ってきたよ」

シルナは、ぽつりとそう言った。

「そうか」

もう何処にもない故郷に帰省するとは、なかなか刺激的だな。

刺激的…どころではないか。

「正直凄く懐かしかった。ご丁寧に、そこに私を煩わせるものは何もなかったんだよ。神殺しの魔法もなくて、神々の争いもなくて」

「うん」

「皆笑ってるんだ。懐かしかったなぁ。幼馴染みがいて、仲間達がいて…。正直ね、あのまま残っても良かったんじゃないかとも思った」

「…うん」

そうだろうね。

それがシルナにとって幸せなら、本当に残っても良かったんだ。

例えそれが、シルヴェスタに見せられた幻覚に過ぎないとしても。

「だけど私は、何度同じ選択を迫られても、君を選ぶよ」

「…そうか」

「例え彼らが、私を憎んだとしても」

「…」

「…それで羽久は、何を見たの?」

シルナは、俺に尋ねてきた。

俺にって言うか…前の俺…いや、今回見たのは…俺か。

「前の俺の…二十音の…過去」

「二十音の…」

「あいつ、あんなに寂しかったんだな…」

シルナに出会えて、本当に良かったな。

二十音と俺は、身体を共有しているだけで、人格は別の人間だけれど。

他人事とは思えない。シルナがいなかったら、きっと俺も生まれなかった。

「…前にさ、ナジュに言われたじゃん」

「何を?」

「俺が空っぽだって」

「…!それは」

「良いんだよ。分かってた。自分がこの身体の最初の人格じゃないって」

オリジナルは、やっぱりあの、二十音だったんだ。

そして俺は、俺や未来やステラやサナキと言った、この身体の別人格は。

きっと、孤独に耐えられなかった二十音が、自分で産み出した人格なのだ。

これではっきりした。

俺は、所詮この身体の付属品の一つでしかなかったのだ。

「羽久は羽久だよ!誰がオリジナルとか、そんなの関係ない」

シルナは、そう言ってくれるが。

「良いんだ。自分で納得してるから」

むしろ、ナジュには感謝してるくらいだ。

ずっと分からなかったから。自分のルーツ。

これでようやく分かった。

二十音、お前のこともな。

「…羽久。私は君が何者でも…」

「分かってるよ」

お互い様だろ?

俺達は、お互いの孤独を埋め合う関係。

それは俺が羽久だろうと、二十音だろうと変わらない。

シルナの言う通りだ。

俺達は、きっと何度同じ選択を迫られても。






心の穴を埋める為に、互いに手を伸ばし合うのだ。



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