神殺しのクロノスタシス2
「良いですか。何か勘違いしているようですが、学院経営は慈善事業じゃないんですよ。ただでさえあなたは、ちょっと経済不安な生徒がいたら、すぐ学費免除だの無利子奨学金だの、おまけにその奨学金だって、菓子の包み紙感覚で『やっぱり返してもらわなくても良いや~』なんて言って、誓約書をゴミ箱に入れるんですから」

これはシルナの良いところでもあり、悪いところでもある。

「大体イーニシュフェルト魔導学院の学費免除枠は多過ぎるんですよ。ラミッドフルスなんて、成績優秀者の学費免除枠は精々3枠ですよ」

「そ、それは」

イーニシュフェルト魔導学院の学費免除枠、軽くその十倍はあるな。

シルナの方針である。

「そもそも入学金や授業料も最低ラインなんですから。おまけにこの下らない浪費」

「お、お菓子は大事だよ。生徒とのコミュニケーションのきっかけになるんだから!必要経費、必要経費だよ!」

「…」

強硬に、お菓子代は必要経費だと言い張るシルナ。

そんなシルナを、イレースは冷徹な目で見下ろし。

「…なら、これは何ですか」

「え?」

イレースが突きつけた請求書。

こちらは、菓子代ではない。

うさぎ、猫、アザラシ、その他動物のパペット人形代。

総額、シルナの一週間のお菓子代。

「…何なんですかね、これは」

「そ、それも…。せ、生徒とのコミュニケーションの為に…」

「あら?おかしいですね。私、魔導学院の教師をしているつもりだったんですが、ここはいつから幼稚園になったんでしょう」

「と、登校拒否の生徒を一人救えたんだよ?そう思えば、や、安い出費…」

「それとも我が学院長は、加齢によって認知症を患ったんでしょうか。仕方ありませんね。一度電気ショックを流せば、正気に戻るでしょう」

バリッ、とイレースの杖の先から、雷が光った。

いくらシルナと言えど、イレースの本気の雷魔法を食らったら、黒焦げでは済まない。

「は、羽久!助けて!イレースちゃんをなんとか宥め、」

「シルナ…。お前のことは、忘れないよ」

「嫌ぁぁぁ!見捨てないで!イレースちゃん許してぇぇぇ!」

「待ちなさい!」

床を這いずって逃げようとする、見苦しいシルナ。

もういっそ大人しく電気ショック食らっとけば良いのに、と思っていた。

そのとき。

「こんにちは」

「お邪魔するね」

シルナの救い主が、学院長室にやって来た。

聖魔騎士団魔導部隊所属の魔導師、シュニィとベリクリーデの二人であった。

「シュニィちゃん!シュニィちゃんベリクリーデちゃん!丁度良かった!助けて!」

地獄に仏とばかりに、半泣きでシュニィにすがりつくシルナ。

威厳も糞もない姿である。

「ど、どうしたんですか?」

「イレースちゃんがね、イレースちゃんが私を虐める~」

「虐めてはいません。私は忠実に職務を果たしているだけです」

イレースの方が正論だな。

「そ、それにしても二人共、一体どうしたの~?あっ、何か重要な話だね!?よし、イレースちゃん、お客様にお茶を出してあげよう!」

この機に乗じて話をすり替えようと、必死のシルナ。

「ちょっと待ちなさい。話はまだ…」

「さぁさぁお座りくださいお客様!今お茶持ってくるね!きっと大事な話だよ!すぐに聞かなきゃ!お客様を待たせちゃいけないよね!」

「…はぁ」

ここは一時休戦してやるかと、仕方なくイレースは請求書の束をしまった。

良かったな、シルナ。

命拾いして。
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