神殺しのクロノスタシス2
…報告書を一通り読み。

俺は、口には出さずに溜め息をついた。

「…学院長先生」

「…そうだね」

『禁忌の黒魔導書』は、一冊残らず殲滅して、封印し、厳重に管理してある。

だから、問題は一件落着。

…とは、行かないのだ。

この報告書には、非常に大事な事項が抜けている。

何か。

…そもそも、封印されていたはずの『禁忌の黒魔導書』が、どうして世に放たれたのか?

誰が、禁書の封印を解いたのか?

そこが、未だに明らかにされていないのである。

封印を解いた者をとっちめて、動機や手口を吐かせない限り。

『禁忌の黒魔導書』を巡る、あの一連の事件は…解決したことにはならない。

犯人を野放しにしておけば、また同じ手段を使って、今にも封印を解いてしまうかもしれないのだから。

「『禁忌の黒魔導書』の封印を解いたのは誰か、か…。捜索するのは、なかなか難しいね」

「…はい。現状、ほぼ全く手掛かりがありませんから…」

「…私にもよく分かんないや。ヘルヘイム、いきなり私の前に現れたし」

実際禁書を目にしたベリクリーデは、このあっけらかんとした意見。

また、イレースも。

「…申し訳ありません。私にも、彼が何処から来て、誰の手引きで私のもとに来たのかは、分からないんです」

他ならぬ『禁忌の黒魔導書』と契約していたイレースも、分からないと言う。

聞けば教えてくれたのか。それとも、聞いても答えなかったのか…。

今となっては、どうしようもないことだな。

「はい。この通り、手掛かりがほとんどないので…捜査は難航するでしょう。それに、もし『禁忌の黒魔導書』の封印を解いた人物がいたとしたら、それは大変高度な魔法を使える魔導師だと思われます」

…だろうな。

『禁忌の黒魔導書』の管理は、元々甘くはなかった。

そこらの魔導師では、とても歯が立たないほどの厳重な封印を施していたのだ。

それをあっさりと、誰の目にも止まらずやってのけた、その技術。

間違いなく、手練れの魔導師だ。

恐らく…シュニィやベリクリーデのような、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長クラスの魔導師。

「捜査には危険が伴います。並みの魔導師では務まりません」

「…それで、その捜査に参加するのは?私が動こうか?」

シルナは、自らその役を買って出た。

シルナが動くなら、俺も動こう。

しかし。

「いえ、今回は私とベリクリーデさんが行う予定です」

と、意外な返事。

成程、それでベリクリーデが一緒に来たのか。

「いつもいつも、学院長先生と羽久さんに任せっぱなしですから。今回は、私達が」

「そんな、任せっぱなしじゃないよ~。それに、私も羽久も一応魔導部隊の一員なんだし」

「そうそう。放っといたらシルナは暇をもて余して、菓子やケーキばっか食うから。働かせておく方が良いんだよ」

「酷い!」

事実だろ、事実。

さっきまでイレースに怒られてたのを、もう忘れたか。

「ありがとうございます。でも今回は、私達が…」

と、言いかけたそのとき。

シュニィはいきなり顔を歪め、口許を手で押さえた。
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