神殺しのクロノスタシス2
ルーチェス・ナジュ・アンブローシアの過去に、何があったのかは聞いた。

同情もした。

辛い体験をしたんだって分かった。

可哀想だとも思った。

あんなことをするのも、無理もないと思った。

でも、それが何?

あなたが不幸であることと、殺された罪のない人々に、何の関係がある?

こんなことは言いたくない。

こんな残酷なことは言いたくない。

でも、言わなければならない。

何の罪もないのに、無惨にも殺された人々の、代弁者として。

「あなた一人が、何処かで勝手に苦しんでれば良かった。誰一人巻き込まず、我慢していれば、あの人達は死なずに済んだ。幸せに暮らせていた」

「…」

「『死にたい』という、あなたの身勝手な願いの為に、あの人達は犠牲にされたんだ」

「…弁解の余地もありませんね」

そうだろう。

あなたが死ぬことを望まず、永遠の命に悶え苦しんでいれば。

誰一人巻き込まず、一人で苦しんでいれば。

あなた一人だけが不幸で、他の皆は幸せに暮らせた。

残酷だけれど、それが事実なのだ。

あなたの願いと、村人の平和な暮らしに、何の関係がある。

殺された人々は、決してあなたを許さないだろう。

例えあなたに、どんな事情があるとしても。

…だから。

「…僕は、あなたを許します」

「…」

僕の心を読んではいなかったようで。

僕がそう言うと、ナジュ・アンブローシアは、意外そうな顔をした。

「…許して良いんですか、こんな悪魔を」

「…殺された人は、きっとあなたを絶対に許さないだろうから」

あなたの事情なんて知ったことじゃないから、きっと殺された人々は、あなたを永遠に許さない。

あの世で手ぐすね引いて、あなたを八つ裂きにする日を夢見ているだろう。

でも僕は、あなたの過去に何があったのか知った。

そして、もしそれが自分だったら、と思った。

多分僕も、同じことをしただろうと思った。

永遠の命。終わりのない孤独。

それらに耐えて、一人で苦痛を抱え込んだまま生きるなんて、きっと狂ってしまうだろうと思うから。

だから、僕は許す。

「死者はあなたを許さない。だから生者である僕は…あなたを許します」
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