神殺しのクロノスタシス2
「大丈夫シュニィちゃん!?風邪なの?それとももっと悪い病気!?」

おい、馬鹿シルナ。

自分も不安なのは分かるが、余計シュニィの不安を煽るのはやめろ。

「…」

イレースが、何やら考え込むような顔をして。

「吐き気と立ちくらみ…。それに食欲不振…ですか」

…ん?

「…つかぬことを聞きますが、シュニィさん。あなた確か、旦那さんがいらっしゃいましたよね」

「え…?はい、いますけど…」

言わずもがな、アトラスのことだな。

「噂によると、夫婦仲も大変宜しいそうで」

「それは…。えぇと…。あまりそんな噂は流されたくないですね…」

ルシェリート夫妻の仲睦まじいことと言ったら、聖魔騎士団の名物みたいなもんだ。

知らない者はいない。

「失礼ですけど、もしや…。心当たりがあるのではないですか?」

「…!」

…心当たり。

というのは、つまり…。

「…あぁ、赤ちゃん出来たんじゃないかってこと?」

…ベリクリーデ。

お前は、思ったことを素直に口に出し過ぎだ。

「そ、そ、それは…」

目をぐるぐるさせるシュニィ。

思い当たる節が…ある?

「そ、そういえば…そうかもしれません」

どうやら、心当たりがあるらしい。

吐き気や立ちくらみ、貧血、食欲不振、全部悪阻の症状。

そして、超仲良しなルシェリート夫妻。

これは…最早疑う余地なし、か。

「ちょっと…良いかな?触ってみても」

「え?はい…」

シルナが、そっとシュニィの腹部に手を当てて、そして目を閉じた。

こう見えて、イーニシュフェルトの聖賢者の名前は伊達ではない。

「…うん。まだ小さいけど、確かに命の息吹を感じる」

「ほ、本当ですか?」

「良かったね、シュニィちゃん。二人目だ」

「…!」

思わぬところで、第二子発覚。

シュニィは顔を綻ばせ、いとおしそうに自分のお腹を撫でた。

シルナも、超にっこにこ。

何故かシルナが一番喜んでる。

「アトラス君に早く伝えなきゃね~。今彼、何処にいるの?」

「えぇと、今日は北方都市エクトルの小さな村で、部隊を率いて山賊の討伐任務を…」

あぁ、エクトル…。

あそこは隣国との国境沿いにある都市で、山賊やら盗賊やらが頻繁に現れるのだ。

その討伐任務に駆り出されていると。

「だとしたら、帰ってくるには時間がかかるね。特急列車に乗っても半日以上…」

普通の列車に乗って帰ってきてたら、一日跨ぐだろうな。

「どうする?帰ってから伝える?」

「いやぁ、少しでも早く帰ってきてくれた方が、シュニィちゃんも安心するだろうし。とりあえず遠距離伝達魔法で、おめでただけでも伝えておくよ」

きっと喜ぶだろうな。

多分、嬉し過ぎて狂喜の舞を舞うぞ。

実際第一子のアイナが出来たとき、二時間くらい踊ってたし。

聖魔騎士団団長が狂ったと、誰もが思った。

俺も思った。

まぁ今回は二人目だし、アイナのときよりは冷静だろう…と。



…思っていたのだが。



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