神殺しのクロノスタシス2
何とか、シルナを講堂に連行し、学院長席に座らせたものの。

「ひっく…。ずびっ、ひっく…」

「…」

…未だ泣き止まず。

泣くのは生徒と保護者達だろ。何故お前が一番泣いてるんだ。

開会の辞、国家、校歌の斉唱までは良かった。

問題は、卒業証書授与。

イレースが生徒の名前を呼び、シルナは壇上に上がって、生徒一人一人に卒業証書を手渡す。

…の、だが。

「ナナ・エーヴナさん」

「はい」

名前を呼ばれた生徒が、壇上に上がると。

鼻水垂らした学院長が、卒業証書を握って立っていた。

「ナナちゃんっ…!卒業、卒業おべでどうっ…!」

「あ、ありがとうございます…」

「元気でねっ…!たまには遊びに来てねっ…!」

「は、はい…」

華々しい場面のはずなのに、涙と鼻水で顔ぐっちゃぐちゃの学院長のせいで、雰囲気台無し。

しかも、それを一人ずつにやるのだ。

「ユリヤ・クランタさん」

「はい」

「ユリヤちゃん…!卒業おべでどうっ…!」

「は、はい…」

「あの小さかったユリヤちゃんが…!おおぎくなっだねぇ…!」

「は、はぁ…」

お前は保護者か。

でも、こんなのはまだ良い方。

イーニシュフェルト魔導学院の卒業生は、大半が聖魔騎士団魔導部隊に入隊するのだが。

たまに、王都を離れ地元に帰って、地元の魔導学院の教員になったり、王都から離れた魔導研究所に就職する生徒もいる。

そういう生徒は、卒業後、聖魔騎士団魔導部隊で会う機会もなくなるので。

イーニシュフェルトとは、もうほぼ関わりがなくなってしまう。

つまりは、大袈裟に言うと、これで今生の別れ…になる訳で。

そういう生徒の場合、シルナは。

「エーディト・イノイア君」

「はい」

「エーディト君っ…!エーディト君!」

「…はい?」

シルナは卒業証書そっちのけで、エーディト君の両肩を鷲掴み。

「卒業したら、地元の魔導学校の教師になるんだよね?」

「は、はい」

卒業生の名前と顔のみならず、進路まで全て把握している学院長である。

「そっか…。そっか…!元気でねっ。生徒、一杯…教えてあげてね!頑張っでね!」

「はい…」

「たまには遊びに来てね!手紙でも良いから!シルナを忘れないでねっ…!」

「…はい…」

「うぅっ…。元気で…。元気でねっ…!」

「…」

嗚咽を堪えながら卒業証書を手渡され、最早無言のエーディト君。

気の毒な。

ちなみにこれ、卒業生のみならず、その保護者、及び在校生、聖魔騎士団その他関係機関から呼ばれた来賓の方々も、皆見てる前でやってるからな。

聖魔騎士団からやって来た、代表のシュニィなんかは、もう慣れてるから、苦笑いくらいだが。

他の来賓は、威厳もへったくれもないシルナの姿に、口ぽかーん。

在校生は、「あぁ…。いつものアレね…」みたいな顔でスルー。

しかし、実はこれはまだ序の口なのだ。
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