神殺しのクロノスタシス2
伝達魔法は、発信者、受信者共に魔導師でなくては使えない。

アトラスはイーニシュフェルト魔導学院出身だが、魔法は使えない。

その為。

シルナは、エクトルにいるアトラスの部隊所属の魔導師に伝達魔法を使い、アトラスに伝言を頼んだ。

めっちゃヘラヘラしながら伝言してたぞ。

「シュニィちゃんに赤ちゃん出来たよ~。おめでと~」とか。

伝達される魔導師も苦笑いだろうな。

だがまぁ、今頃アトラスも喜んでいることだろう。

…で、その一方。

「大丈夫?シュニィちゃん」

「…済みません…」

吐き気がなかなか収まらず、それどころか倦怠感が酷いらしく、シルナとイレースに勧められ、医務室のベッドに横になっていた。

めでたいことではあるのだが、やはり悪阻は辛いようだ。

シュニィが悪い訳じゃないからな。気にするな。

…それにしても。

「…シュニィが身重なら、『禁忌の黒魔導書』の調査を任せる訳にはいかないな」

「…そうだね」

今が、一番大事な時期。

無理に彼女を働かせ、お腹の子に何かあれば、俺達がアトラスに殺されかねない。

本気になったあの男に追われたら、さすがの俺も命の危機を感じるぞ。

「済みません…。私のせいで…」

青ざめた顔で言うシュニィ。

「そんな、シュニィちゃんは悪くないよ。シュニィちゃんの今の一番の仕事は、お腹の子を元気に育てることだよ」

「その通りです。おめでたいことなのですから、気にしなくて良いんです」

そう言われてもまだ、シュニィは申し訳なさそうな顔。

おまけに悪阻の症状も辛いらしく。

「…うっ…」

再び吐き気が襲ってきたようで。

…これ、あれだな。

俺達はいない方が良いな。

そうだというのに。

「シュニィちゃん!シュニィちゃん大丈夫!?」

多分本気で心配してるだけなんだろうけど、シルナは大声を出し、やや乱暴な手つきでシュニィの背中をさすろうとした。

あの馬鹿。

ただでさえ、気分が悪いであろうシュニィの耳元で大声を出し。

しかも、女性のデリケートな身体のこと。

恩師とはいえ、家族でもないシルナに、無遠慮に触れられたくはないだろうに。

しかし。

無論、そんなことはイレースは許さない。

イレースはシルナの向こう脛を思いっきり蹴っ飛ばした。

「あ痛ぁぁ!」

「喧しい。出ていきなさい」

「ほら行くぞ、馬鹿シルナ」

俺はシルナの襟首を掴み、ずるずると引き摺って医務室を出た。
< 50 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop