神殺しのクロノスタシス2
後で聞いたところによると。

事が起きたのは、およそ二時間前。

イーニシュフェルト魔導学院に、とある来客がやって来た。

これは、先程も言った通り、珍しいことではない。

しかし、今回は少々、珍しい来客であった。

普段来客と言えば、聖魔騎士団絡みの関係者か、学院関係者のどちらか。

だが今回の来客は、一般人の主婦であった。

その主婦は、イーニシュフェルト魔導学院に生徒を通わせている保護者。

ようは、生徒の母親である。

生徒の名前は、ユーマ・ウェズライ。

その生徒、ユーマの母親が、学院までやって来たのだ。

しかも、血相を変えて。

まずその母親の対応をしたのは、いつも通り、イレースだった。

「どちら様でしょうか」

「どちら様じゃないわよ!この学費泥棒!」

そのやり取りから、互いの応酬が始まった。「…」

学費泥棒と呼ばれたイレースは、ピキッ、とこめかみに血管を浮き立たせ。

それでも、相手は生徒の保護者。

何とか礼儀正しく接しようと、努力していた。

「何度も言いますが、我が校に落ち度はありません。お宅のお子さんの努力が足りなかっただけです」

「何よ!?うちの子が馬鹿だって言うの!?」

「馬鹿とは言っていません」

そもそも、イーニシュフェルト魔導学院に入学している時点で、馬鹿ではない。

本当に馬鹿なら、入学試験を突破することなど不可能だからな。

しかし。

どんなに優秀な学校でも、成績の良い生徒もいれば、悪い生徒もいる。

とはいえ、イーニシュフに入っているのだから、一般的に見れば、その生徒はとても優秀な魔導師の卵だ。

でも、イーニシュフェルト魔導学院の、校内の基準で考えると…。

…ちょっと、劣ってる生徒も、たまにいる。

それは仕方ない。何処の学校でも同じだ。

上には上がいるし、下にも下がいる。

「うちの子を馬鹿呼ばわりとは、あんた何様よ!何がイーニシュフェルト魔導学院の教師よ。そういうあんたは、何処の学校出身よ!?イーニシュフェルト魔導学院なんでしょうね!?」

「ラミッドフルス魔導学院です」

彼女の古巣の名前を出すと、ユーマ母は鼻で笑った。

「たかがラミッドフルス魔導学院で教師やってた人間が、偉そうに指図するんじゃない!」

言っとくが、イレースは。

元ラミッドフルス魔導学院の教師と言っても、教師の前に「鬼」がつくからな。

その辺の教師とは、訳が違う。

「あんたじゃ話にならない。もっと上の人を呼びなさいよ!」

「呼びました?」

そこに現れたのは、イレースよりもっと上の人…ではなく。

イレースよりもっと…ヤバい人であった。
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