神殺しのクロノスタシス2
誰を隠そう。

イーニシュフェルト魔導学院の新米教師、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアである。

今、一番来ちゃいけない人が来てしまった。

「!?あんた誰よ!」

「僕ですか?僕はナジュですが」

「あんたもイーニシュフェルトの教師なの!?」

「いかにも教師ですが、どうしたんですか?やかんみたいに頭から湯気出して」

こういう余計なことを言うから、火に油を注ぐ。

「何ですって!?あなた、私を馬鹿にしてるの!?」

怒る。そりゃ当然怒る。

当たり前だ。やかん呼ばわりされたらな。

ナジュは、くるりと振り向いて、イレースに尋ねた。

「この人、何なんですか?」

「息子さんの成績表が送られてきたんですけど、その結果に納得が行かないそうです」

「あぁ成程。『うちの子がこんなに馬鹿な訳ないじゃない!』って奴ですか」

「それです」

そう、これが稀にいる。

モンスターペアレント、って奴である。

「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。喧嘩は良くないですよ」

どの口が言っているのか。

「一体どうしたんですか。成績表に何か不備でも?」

「不備?不備どころじゃないわ!こんなの、うちの子の成績表な訳ない!」

「はぁ。ちょっと拝見しても?」

そう言うと、ユーマ母はナジュに、くしゃくしゃの成績表を突き出した。

「…」

成績表の名前を確認し。

「…あなた、ユーマ・ウェズライのお母様ですか?」

「そうよ!」

「じゃあ大丈夫。これ、あなたの息子さんの成績表です。ちゃんとほら、名前書いてありますから」

いや、多分取り違えに抗議しに来たんじゃない…と。

俺がこの場にいたら、すかさずツッコミを入れたに違いない。

が、そのとき、俺とシルナはまだこのことを知らなかった。

ナジュのせいで、余計逆上してしまったユーマ母。

ナジュの手から成績表を奪い取り、叫んだ。

「何よ!馬鹿にしてるの!?」

「いや、お名前読めなかったのかなと思って…」

「うちの子の成績表よ!」

「だったら、何に怒ってるんですか?」

「これよ、これ!」

ユーマ母は、再度成績表を見せつけた。
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