神殺しのクロノスタシス2
…それだけでも、恥ずかしくて仕方ないのに。

後で聞いたところによると。

アトラスさんはエクトルで、山賊相手に少々手こずっていたところだったらしい。

アトラスさんの実力云々ではなく、相手の山賊がなかなか狡猾で。

山の中に複数の基地を持ち、隠れて潜伏しているので、叩くにも時間がかかると。

これは長期戦になるかも、と作戦を練っていたところに。

シルナ学院長から、アトラスさんの部隊にいた魔導師に、伝達魔法で伝言が届けられた。

「アトラスさん、奥さんに第二子が出来たそうですよ。おめでとうございます」と。

それを聞くなり、アトラスさんはしばしぽかーんとし。

それから奇声をあげて大剣を持ち、部隊を置き去りにして、山の中に突撃していったとか。

そして、次々と山賊の基地を殲滅。

気の毒な山賊の皆さんは、その突然の奇襲に、逃げることも戦うことも出来なかったそうな。

文字通り山賊を全員吹っ飛ばして、山を降りてきたと思ったら。

アトラスさんは部隊の魔導師に土下座して、補助魔法を…私がよく使う、一時的に身体能力を超強化する魔法をかけてもらったとか。

その魔法のお陰で、身体能力を最大限に引き上げたアトラスさんは。

特急列車を越える速度で、線路際を爆走し。

部下の制止も何も聞かず、「うぉぉぉぉぉ!」とか叫びながら、北方都市エクトルから王都セレーナまで、一気に駆け抜けてきたとか。

脳筋なのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。

今更だが、本当にこの人の子供を生んで大丈夫なのか、不安になってきた。

エクトルからセレーナまで、どれだけ距離があると思っているのだ。

まさか走って帰ってくるとは思わなかった。

おまけにアトラスさんと来たら、それだけの距離を走破しておきながら、けろっとしているのだ。

この人の体力は、底なしなのか。

後日、王都で噂になっていた。

線路際を、特急列車を越える速度で爆走する怪物が出た、と。

ごめんなさい。それ、私の夫です。

もう恥ずかしくて、恥ずかしくて、仕方ないのに。

嬉しそうな顔で私のお腹を撫で、「元気に生まれてくるんだぞ~」なんて話しかけている姿を見ると。

もう何も言えなくて、苦笑い一つで許してしまうのだから、私も甘い。
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