神殺しのクロノスタシス2
僕のことをずっと見てて、かつ僕の性分を誰より知ってるリリスが、そう言うのなら。

多分、そうなんだろうけど。

「楽しいんですかねー…。僕…」

「あれ~?自覚なし?」

「なしです」

でも本当に、リリスが楽しそうだって言うのなら。

それはきっと。

「こうやって、魂だけの形になっても、あなたに会えるようになったからじゃないですか?」

そのお陰で、精神衛生が保たれていると言うか。

心に余裕が出来たって言うか。

死に急ぐ必要がなくなったって言うか。

しかし。

「それだけじゃないと思うよ」

「…そうですか?」

「うん。きっとイーニシュフェルトに来て、仲間達や生徒達に囲まれて、頼りにされて、それが今のナジュ君の、生き甲斐になってるんじゃないかな」

「…はぁ…」

僕はリリスみたいに思慮深くない。

むしろ、全然自分で考えるということをしない、目先のことしか考えない、即物的な人間なので。

生き甲斐とかそういうの、よく分からない。

今が良ければそれで良い派。

「僕は頼りにされてるんでしょうか。羽久さんにはよく、余計なこと言うなって言われるんですけど」

「あはは。それはナジュ君の悪い癖だ」

それもよく言われる。

「でも、頼りにはされてると思うよ」

「それはつまり、僕が不死身で、盾にするには最強の武器だから?」

「もー。分かってないなぁ君は。いつまでたっても、構ってちゃんなんだから」

はぁ、済みません。

生まれたときから何の進歩もしてなくて、本当済みません。

でも本当に、僕が今楽しそうに生きてるとして。

「…僕は、幸せになって良い人間なんでしょうか」

あれだけいっぱい、狂ったように人を殺してさ。

騙して、狂って、壊して、狂って、殺して、また狂って。

そんな自分が、今更正気に戻った…気になって。

地獄の底から、僕の足を引きずり下ろしてやろうと、手ぐすね引いて待ってる人達なんて、いっぱいいるだろうに。

そんな僕が。

「幸せだと感じることに、罪の意識を覚えなきゃいけないんですよね」

「…そんなことはないと思うな」

リリスは、僕の頭を手のひらで撫でた。

「少なくとも私は、君がずっと幸せであることを祈ってるよ」

「…リリス…」

「大好きな人が幸せになってくれると思うと、それは私にとっても幸せだから」

…そうか。

地獄の底で僕を待ってる皆さん、ごめんなさい。

僕は今、あなた達の命を、恥知らずにも踏みつけて。

幸せだ、と感じてるみたいです。

こんな面さげて生きてて、本当にごめんなさい。
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