神殺しのクロノスタシス2
その知らせを聞いたのは、一時間目の授業の最中。

俺は講義室で、五年生相手に時魔法の授業を始めていた。

授業が始まって、15分ほどたった頃だろうか。

「えー、皆分かってると思うけど、時魔法というのは時空を歪める魔法であって、使用するに当たってはルーデュニア聖王国の魔導法に、」

テキスト片手に、チョークで黒板に板書していると。

コンコン、と講義室の扉がノックされた。

「…?」

生徒達もだが、俺も驚いた。

授業中に、何処の誰が何の用だ?

俺はテキストとチョークを教壇に置き、扉に向かった。

扉を開けると、そこには二年生の女子生徒が二人、困惑した様子で立っていた。

「どうした?君達。授業は?」

この時間なら、授業が行われているはずだろう。

何故ふらふら校舎内を彷徨いてる?

「あの…それが、私達、隣の教室で授業があるはずなんですけど…」

二人のうち一人が、おずおずと申し出た。

隣の教室?

隣は、講義室2の教室だ。

そこでも、授業が行われているはず。

それなのに。

「いつまで待っても、先生が来なくて…」

「何…?」

先生が、来ない?

そりゃ大事件だ。

シルナの奴、分身を送り忘れたのか?あのボケ老人め。

「隣は、何の授業?」

「えっと、『風魔法基礎Ⅱ』です」

何だと?

シルナの馬鹿が、うっかり分身の教師を送り忘れたのかと思ったが。

風魔法と来たら、話は違ってくる。

風魔法は、ナジュの得意な魔法だ。

従って、ナジュがイーニシュフェルト魔導学院に来てからというもの。

基礎だろうが応用だろうが実技だろうが、風魔法の担当はナジュに任されていた。

それなのに。

「風魔法って言ったら…ナジュだよな?」

「はい。ナジュ先生なんですけど…。いつまでたっても来なくて…」

「自習とか、今日は休講にするとか、事前に連絡があった訳じゃないんだよな?」

「はい。いつも通り…授業があるはずなんですけど…」

と、口ごもる女子生徒二人。

…なんてこった。

授業が始まってから、もう20分近くになる。それなのに、まだ教師が来ないとは。

生徒じゃなくて、教師が遅刻かよ。

あいつ、もうバケツ持って廊下に立っとけ。

いや、待て。

…もしかして。

俺は、冷たい汗が背中に流れるのを感じた。
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