神殺しのクロノスタシス2
「…」

「…」

俺も、イレースも、何も言えなかった。

そうなのだろう。

『カタストロフィ』のリーダー…ヴァルシーナとか言ったか。

彼女の目的は、聖なる神を復活させ、邪神を滅ぼし、「あるべき世界」に戻すこと。

その為に、彼女は『カタストロフィ』を組織し、俺とベリクリーデを狙った。

そしてヴァルシーナにとって、邪神に寝返ったシルナは、宿敵も同然。

当然のように、憎んでいるだろう。

「…止めに行かなきゃ。私が」

シルナは、杖を握って立ち上がった。

「全ては私が招いた過ちだ。私があのとき…」

…。

…あのとき、俺を…二十音を殺せていれば。

こんなことにはならなかった。

そう言いたいんだろう、お前は。

確かにその通りなんだろう。でも…。

「イレースちゃん、羽久。学院をお願い。それと、聖魔騎士団にいるベリクリーデちゃんの護衛を…」

「…ちょっと待て」

お前今、何て言った?

「何?」

「…お前、一人で行くつもりか?」

「…当然だよ」

あぁそうかい。

そんなお前に、素晴らしく相応しい言葉を与えてやろう。

「…ふざけるな、馬鹿野郎」

お前という奴は。

何百年たっても、何千年たっても。

何の進歩もしない馬鹿め。

「そうやって、何もかも全部一人で背負って。何もかも全部自分のせいにして」

今の世界があるのはお前のせいか。

今のルーデュニア聖王国があるのはお前のせいか。

「あるべき世界」とやらじゃないのは、全部お前のせいなのか。

馬鹿じゃないのか。

「一人で感傷に浸って、一人で罪悪感抱え込んで、自己犠牲で気持ちよくなってんじゃねぇ」

「…羽久。でも、君は関係な、」

「それが馬鹿だって言ってるんだよ!」

俺は、思いっきりシルナの顔に拳をお見舞いしてやった。

イレースが制止に入るまでもなかった。

何が、羽久は関係ないだ。

「そりゃ俺は偽者だよ。空っぽだよ。この身体を共有する、人格の一人でしかない」

二十音だったときのことなんて、一つも知らない。

だから、確かに俺は、羽久は、関係ないのかもしれない。

そうだよ、俺は関係ないさ。

だからお前は一人で行けば良い。またいつも通り、何もかも全部一人で背負って。

この世の罪の全てを、自分のせいにして。

…ふざけるな。

「それでもお前には、仲間がいるだろ!」

「…!」

何驚いたみたいな顔してんだ。

今に始まったことじゃない癖に。

「お前が正しい道から逸れたのは、二十音の…俺のせいでもある」

「そんな、ことは…」

ないとは言わせないぞ。

「言っただろ。お前の罪は、お前一人だけのものにはさせない」

こんな頼りない奴に、これほどの重さの罪を背負わせる訳にはいかない。

「…お前が地獄に落ちるなら、勝手に落ちれば良い」

そのくらいの覚悟はあるのだろうから。

そしてまた、俺も。

「でも、そのときは俺も一緒だ」

「…羽久…」

「行くぞ、一緒に」

誰が、こんな寂しがり屋を一人で行かせるか。

冗談じゃない。

そうだ、俺達は寂しがり屋の集まりだ。

二十音も、羽久も、シルナも。

そして、今ここにはいないナジュも。

だから、一緒にいるんだ。

寂しがり屋同士、手を取り合えば、孤独を満たせるから。
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