神殺しのクロノスタシス2
なんという皮肉だろう。

「私は、あの荒廃したイーニシュフェルトの地で、祖父であった族長の手記を見つけた」

…言われなくても、知ってる。

さっき心の中を読んだから。

あんたは、あのとき。

シルナ・エインリーが、全ての里の命を吸い取って、神殺しの魔法を使い、邪神を封じ込めた。

でも、あんたは生きてた。

族長は、シルナ・エインリーだけじゃない。

可愛い孫娘、シルナ・エインリーに勝るとも劣らない実力を持った孫娘の為に。

ほんの少しだけ、彼女が死なずに済むよう、最期の最期に、あなたに魔力を分け与え。

そして、彼女は生き残った。

あの日、生き残ったのは、シルナ・エインリーだけじゃなかった。

もう一人いたのだ。

ここに。

ヴァルシーナ・クルスが。

「私は祖父の手記を読み、そして我流ながら、神殺しの魔法を会得した」

「…」

…いちいち言うなよ。

言わなくても分かってるんだから。

「これが何を意味するか、お前にも分かるだろう」

あぁ、よく分かってるよ。

あんたが、とんでもなく性根の悪い女だってことが。

『カタストロフィ』なんかに与して、シルナ・エインリーに殺してもらおうとする必要なんて、最初からなかった。

あんたは、いつでも僕を殺せた。

僕を殺す、たった一つの、唯一の方法を知っていた。

知っていながら、僕を利用し、シルナ・エインリーに接触させ。

あるいはこうして、僕がシルナ・エインリーに寝返ることも見越して。

僕を利用したのだ。

…な?滑稽だろ?

あんたが素直に僕を殺してくれていれば、こんな苦労をせずに済んだのに。

案外僕って、不死身じゃないのかも。

だってこうして、証明されたじゃないか。

僕を殺せる人間は、二人もいるのだから。

シルナ・エインリーと。

ヴァルシーナ・クルス。この二人。

そう思うと、僕がこれまで、狂い死にしかけながら生きてきたのって。

全部、茶番だったみたいじゃないか。
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