神殺しのクロノスタシス2
…誰もいなくなっちゃった。

ヴァルシーナの姿が見えない。

「…?」

多分僕は、別の異空間に飛ばされたのだ。

それとも、幻覚を見せられ、

「…っく…う…っ…」

「…!」

誰かの泣く声が聞こえた。

これが他の誰かなら、別にどうでも良いのだけど。

その声は、僕が最も愛している人の声だった。

振り返ると、案の定彼女が。

リリスが蹲って、溢れ出る涙を拭いながら、泣きじゃくっていた。

「…リリス…!」

ここは何処なのか、どうやったら出られるのか。

考えなければいけないことは、山ほどあるのに。

僕はリリスの姿を見るなり、駆け寄らずにはいられなかった。

それが幻なのか、本物なのかは分からなかった。

「リリス…」

そっと彼女の肩に手を触れた。

触れる。感触がある。

あながち幻でもないのか?

「何で…泣いてるんですか?」

僕は、あなたに泣いて欲しくない。

あなたの泣き顔なんて、僕にとっては、世界で一番見たくないもののうちの一つだ。

しかし。

「酷いよ…酷いよ、ナジュ君…」

「…え?」

リリスは、瞳に涙をたっぷりと溜めて、僕を見上げた。

「私達、ようやく解放されるところだったのに…。ナジュ君がヴァルシーナの誘いを断るから、私達まだ苦しまなきゃ、」

「死ね」

僕は魔法で作った刃で、リリスの首を跳ねた。

転がった頭部が、ころころと転がっていった。

これは幻だ。

ヴァルシーナが、僕に幻覚を見せている。

「…馬鹿にするなよ」

リリスが、そんなことを言うはずがないじゃないか。

僕に「生きて」と言ったのは、他ならぬリリス自身なのだから。



…しかし。

「…何で、お前は生きてるんだ」

「…!?」

振り返ると、そこには、首を跳ねられた老人の遺体が喋っていた。





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