神殺しのクロノスタシス2
「あれ…。そういえば、羽久さんに、ヴァルシーナもいますね」

ナジュは、きょろきょろと辺りを見渡した。

「いつの間にか僕、幻覚から覚めてます?」

幻覚…。

「さっきまで、幻見てたのか?」

「あ、はい…。地味に心に来る陰湿な魔法使われちゃって…」

そうか。それは同情する。

俺達もそれ、受けたことがあるからな。

あれ陰湿だよな、本当。

「今は本物なんですか?羽久さんも?」

「本物って…。お前がもし幻を見てるのだとしたら、いくら俺が幻じゃない本物だ、って言い張っても、信用出来ないだろ」

「確かに」

幻が、自分から「私幻です」って申告してくれる訳じゃないからな。

すると。

「案ずるな。お前には、もう幻は見せていない」

ヴァルシーナ自らが、そう言った。

あぁ…。あんたがヴァルシーナ。

「そうなんですか?何でやめたんです?」

「心を読めば分かることだろう」

「そうだった。…成程、僕なんかより、もっと美味しい餌が来たんですね」

「そうだ」

ナジュより美味しい餌…か。

餌呼ばわりされるのは、非常に不快だが。

実際、その通りだ。

「…ナジュ、お前ちょっと下がってろ」

「嫌ですよ。これは僕がけじめを…」

「…いいや、ナジュ君」

シルナが、ナジュの肩に手を置いた。

「これは私のけじめだから」

「…学院長…」

「それに君、今疲れてるでしょ?」

「めっちゃ疲れてますね」

正直者だな、お前は。

それもそうだろう。

不死身とはいえ、ヴァルシーナ相手にまともにやり合い、

更に精神攻撃までされたと来たら、疲れるのも当然だ。

「ちょっと休んでて」

「…分かりました。必要だったら呼んでください」

「うん」

うんと答えたものの、シルナがナジュに助けを乞うことはないと分かっていた。

ここから先は、多分、ただの人間の介入することじゃない。

「…ようやく、貴様に相見える日が来た」

ヴァルシーナは、憎しみのこもった目で、シルナを睨み付けた。
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