神殺しのクロノスタシス2
…出来ない、か。

シルナらしいな。

甘っちょろいと言うなら、言えば良い。

間違っていることも分かってる。

正解の道じゃないことも。

でもそれが、シルナ・エインリーという人間が選んだ、答えなのだ。

「…許しがたい蛮行」

ヴァルシーナは、憎しみのこもった声で呟いた。

「族長の血を継ぐ者として、私はお前を許すことは出来ない…」

「…そうだね」

許して欲しいなんて、ハナから思ってないだろうよ。

「イーニシュフェルトの名を名乗ることも、賢者を名乗ることも許さない」

「…」

「イーニシュフェルトの里の民の悲願さえ、お前は踏みにじり、死者の無念を裏切った」

「…」

…やめろ。

それはシルナのせいじゃない。

「お前のこの罪を、死以外の何を以て購わせようか」

ヴァルシーナは、シルナに杖を向けた。

「死んで、我が祖父に謝ってこい。一族の皆に謝ってこい。許してもらえたら、の話だがな」

「…許しはしないよ。誰もね」

「分かっているのなら良い。お前を殺し、お前がご執心の邪神も殺し、そして一族の皆が望んだ『あるべき世界』を取り戻す」

「残念だけど、それはさせない」

シルナもまた、同じように杖を向けた。

…どうして、こんな争いが。

同じ生まれ故郷の、同胞なのに。

どうしてこんな、無益な戦いが起きる。

「…そんなに大事か。一族の悲願ってのが」

俺はヴァルシーナに向かってそう言った。

「シルナ一人を犠牲にして、人身御供に捧げて、それがあんたの言う、『あるべき世界』なのか」

「部外者が口を挟むな!これは、我が里の一族の問題だ!」

イラッとした。

何を言ってるんだ、この女。

「勝手に部外者にするな。俺は当事者ど真ん中だろうが。俺の中に何がいるのか忘れたのか!」

「…っ」

あんたが万一シルナに勝って、ベリクリーデが捕まるようなことになったら。

俺だって殺されるんだよ。ふざけるな。

自分達だけの問題にするんじゃねぇ。

「シルナはもう充分苦しんだだろ。もう解放してやれよ。自分の好きなように生きて良いだろ!」

「ふざけるな!イーニシュフェルトの里の者が、自分の私利私欲の為に生きる?その為に聖なる神の復活を阻止する?笑止千万!」

「笑いたきゃ勝手に笑えよ!」

馬鹿じゃないのか、この女は。

イーニシュフェルトの里出身だろうが、聖賢者だろうが何だろうが。

「シルナは人間なんだよ!一人の人間!普通に幸せになって、普通に安心して暮らして、普通に愛する人と添い遂げたいと思うことの、何が悪いんだ!」

「…!」

そうだ、シルナは悪くない。

愛したい人を愛したくて、愛されたい人に愛されたくて。

その為に生きることの、何が悪いんだ。

「…同感ですね」

ナジュが、ぽつりと呟いた。
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