神殺しのクロノスタシス2
「人は感情を殺せない…。『正しさ』だけでは図れない。愛する者の為なら、己の命なんて、その他の命だって、どうでも良い…」

「…下らない」

「下らないですか、そうですか。この世で一番美しい感情を…『愛』を知らないあなたは、とても憐れです」

…同感だな。

「…お前達は、何も分かっていない。イーニシュフェルトの里に生まれし者の使命を」

「そりゃ僕は知りませんよ。イーニシュフェルト出身じゃないし」

うん。

それは俺も同じなんだけど、そんなあっさり言われるとな。

「…まとめて葬り去ってやる。ナジュ・アンブローシア。そして、シルナ・エインリー」

「いやぁ無理なんじゃないですか?僕不死身だし」

そんなこと関係ない、とばかりに。

ヴァルシーナの杖から、巨大な光の球が膨らんでいった。

あれ、まともに食らったら死ぬぞ。

だから、その前に。

「シルナ!」

「っ、羽久!」

この狭い異空間では、あの攻撃を避けきることは出来ない。

ならば、あの攻撃を食らわない為には、こちらも同じだけの魔力を以て、相殺しなければならない。

俺とシルナなら、そのくらいのことは容易い。

しかし。

「…愚か者め」

ヴァルシーナは、獲物を見つけた肉食獣のように口許を歪めて笑った。

と同時に、シルナが叫んだ。

「羽久!後ろ!」

「!?」

つい先程まで、俺の正面にあった光魔法の光球が。

突然、俺の背中に転移した。

一瞬で理解した。

キュレムとルイーシュが、よく使う手だ。

攻撃を放ってから、空間魔法で相手の死角を狙って…!

咄嗟に防御しようとするが、この距離では…。

間に合わな、

「!?」

俺の視界一杯に。

壁が、立ち塞がった。
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