神殺しのクロノスタシス2
…さて。

二十音が出てきてしまって、少し計画は狂ったが。

ヴァルシーナに、もう打つ手がないのは明白だ。

「…もう、終わりで良いよね?」

「…」

ヴァルシーナは、ぐったりと蹲り、杖を握る力さえ残っていないようだったが。

かろうじて、まだ意識はある。

聞こえているはずだ。

「イーニシュフェルトの里は滅んだ。そして唯一の希望であった私は、この子を選んだ」

故郷を裏切り、邪神を宿す二十音を愛することを選んだ。

それが正解の道でなくても。

「…ろ、せ…」

ヴァルシーナが、何かを囁いた。

血を吐きながら、まだ喋る余裕があるとは。

「何かな?」

「殺せ…私を…」

…あぁ、そういうこと。

「地獄の…底で…貴様が堕ちてくるのを…永遠に、待ち続けてやる…」

それがせめてもの、君の抵抗だと言うんだね。

「…悪いけど、その願いは聞けないな」

だって。

死んだところで、君は正しい行いをしたのだから、天国に行くよ。

そして私が死んだとき、行くのは地獄だ。

会うことはないだろう。

それに。

「私は何も、故郷が憎かった訳じゃない」

むしろ、故郷を愛していたのだ。

ただ、その愛が二十音に対する愛と比べて、ずっと無価値だっただけで。

故郷の、しかも族長の孫娘を、この手にかけるような真似はしない。

しかし。

「…何処までも、我らの誇りを汚す者め」

ヴァルシーナは、最後の力を振り絞るようにして、私の背中に恨み言をぶつけてきた。

「貴様の罪は、いずれ必ず裁かれる。必ず…!」

…そうかもしれないね。

でも、それは今じゃない。裁きを下すのは君じゃない。

だから、それまでは…。
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