神殺しのクロノスタシス2
私は、瀕死の重傷を負ったヴァルシーナに、背中を向けた。

とどめは、刺さなかった。

刺せなかった。

そんな弱い私に向かって、地べたに転がったままのナジュ君が、私に話しかけてきた。

「…ねぇ、シルナ学院長」

「うん?」

「そんな罪を犯してまで、あなたに生きる意味はあるんですか」

…良い質問だ。

「答えを聞かなくても、君は心が読めるんだから、聞く必要ないんじゃない?」

「今、肝臓治すのに必死なんで、読心魔法使ってる余裕がないです」

成程。確かに。

「私には、生きてる意味も価値もない」

多分、生まれたときからずっとね。

「じゃあ、何で生まれてきたんですか?」

何で、とは。

ナジュ君は、本当に良い質問をするね。

私が何で生まれてきたのか、その理由は簡単だ。

「…この子に、二十音に会って、二十音を愛して、二十音に愛される為、かな」

「…」

「…何か言ってよ、ナジュ君」

なんか、寒いこと言ったみたいな空気になっちゃったじゃないか。

「いや、寒いこと言うなぁと思って…」

君、今本当に読心魔法使ってないの?

「意外とどうでも良い理由なんですね」

「…酷いなぁ…」

「でも、僕も似たような理由で生まれてきたんで、お互い様ですね」

「…そっか」

意外につまらないものなんだね。

生きてる理由とか、生まれてきた意味とか。

そんなのどうでも良いじゃないか。

生きて、幸せでいられるのなら。

そんなつまらない理由で生きてたって、それで良いじゃないか。

でも出来れば、願わくば。

死ぬ一秒前に、「あぁ良い人生だった」と思いながら走馬灯を見られたら、幸せだよね。
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