神殺しのクロノスタシス2
「ごめんくださ~い。お邪魔します」

シルナは、出産祝いの花籠を持って、シュニィの病室を開けた。

病室の中には、シュニィと、その夫であるアトラス。

そして、晴れて姉となったアイナと、その隣のベビーベッドですやすやと眠る、生まれたての赤ん坊がいた。

ルシェリート一家勢揃い。

「あら、学院長先生…。わざわざいらしてくれたんですね。ありがとうございます」

シュニィは俺達を見てそう言い、ベッドのシーツに手のひらを押し付け、何とか起き上がろうとした。

それだけでも体力を削られるのか、僅かに苦悶の声をあげるシュニィ。

そんなシュニィを、アトラスが慌てて止めた。

「駄目だ、シュニィ。起き上がるな」

「で、でも、学院長先生がわざわざ…」

「良いから、横になってろ」

いつになく真剣な目でアトラスに叱咤され、シュニィは諦めて、再び横になった。

「済みません…。こんな見苦しい様を…」

「とんでもない。ごめんね、三人で押し掛けちゃって」

「いいえ…。来てくれて嬉しいです。昨日はイレースさんも来てくださって」

そうだったな。

「それで…その子が、息子君?」

「えぇ」

シュニィは、いとおしげにベビーベッドを見つめた。

そこには、ルシェリート夫妻の第二子となった赤ん坊が眠っていた。

血色もよく、まるまるとして、とても元気そうだ。

「あぁ可愛い~っ!可愛いねぇこの子」

シルナは、ほくほくと弟君を眺めていた。

おいやめろ。おっさん臭が移る。

すると。

「そうだろう学院長、そうだろう!俺と!シュニィの!子供だからな!世界一可愛いに決まってる!」

アトラスの親馬鹿スイッチが、オンになってしまった。

「アイナが生まれたとき、もうこれ以上可愛いものは何もないと思っていたが、俺は馬鹿だった!アイナに勝るとも劣らず、レグルスのこの可愛いこと!最早常軌を逸している!」

鼻息荒く、我が子がいかに可愛いか力説するアトラス。

この子、レグルスって名前なんだ。へぇ。

良い名前じゃないか。

「我が子が増えるというのは、この上ない喜びだ!ありがとうシュニィ!お前のお陰で俺は、二人も愛する子供を持つことが出来た!お前は最高の嫁だ!ありがとう!」

「あ、えっと…はい…」

…アトラス、すげーうるさいんだけど。

シュニィの体調が悪いのって、アトラスが横で大騒ぎしてるからじゃね?

この様子じゃ、通りすがる人全員に声をかけて、我が子がいかに可愛いか、自分の嫁がいかに美しいか、力説して回ってるんだろうな。

そういやアイナのときもそうだった。

すると、ナジュが真顔で。

「この人凄いですね。心の中で思ってることと、口に出してることが完全に一致してますよ。心読んでも全然面白くないんですけど」

「…読むなよ…」

アトラスは、正直者だからな。

思ったことほとんど全部口に出すし。

とりあえず、まぁ、ルシェリート夫妻っぽくて、良いんじゃないの?
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