神殺しのクロノスタシス2
「おとうしゃま、アイナも赤ちゃんだっこする~」

アトラスの膝の上に座っていたアイナが、そう訴えた。

「よしよし。お前の弟だぞ~」

アトラスは、息子を起こさないようにそうっと、アイナの小さな膝に抱っこさせてあげた。

アトラスの膝の上にアイナが座り、そのアイナの膝の上に、ちっこいレグルスが座る。

マトリョーシカみてぇ。

あと、めっちゃ微笑ましい。

この微笑ましい光景に、シルナも感極まったようで。

「良かったねぇ。ぐずっ、ずぴっ、良かったねぇシュニィちゃん」

「ど、どうも…」

鼻水を垂らし、半泣きのシルナに引き気味のシュニィである。

当たり前だ、気持ち悪い。

まぁ、シュニィは、今までたくさん苦労してきたもんな。

その分を取り返すように、これから幸せになれば良い。

これからもっともっと、幸せになれば良いのだ。

…と、思ったけど。

「…なぁ、シュニィ。正直に言って良いか?」

俺は、アトラスに聞こえないようらシュニィの耳にこっそり話しかけた。

「な、何ですか?」

「アイナのときは、まぁ女の子だから大丈夫だろうと思ってたが…」

この度生まれたのは、男の子。

それ自体は、何も悪くないのだが。

この子は、「あの」アトラスの血を引いている。

「油断してると…あの子も、アトラスみたいになるぞ」

「…!」

気づいたようだな、シュニィ。

愛妻の為なら機関車のごとく駆け回り、愛娘の為なら地球一周も為し遂げる(であろう)男。

そんなアトラスに、息子が出来た。

シュニィの血が強ければ、何とか軌道修正も出来るだろうが。

もし、アトラスの遺伝子の方が強かったら…。

…アトラス二世、現る。

二人で戦慄した。

「もしかしたら、もうアイナまで汚染が…」

「い、いいえ大丈夫です。アイナは女の子ですから」

本当か?

「アイナ、アイナ」

「なぁに?」

俺は、念の為とばかりに、アイナに尋ねた。

「アイナは大きくなったら、何になりたい?」

「おとうしゃまみたいに、強くてかっこよくなる!」

「…」

…シュニィ。

あの子も…もう既に駄目かもしれん。

「そうかそうか!アイナならなれるぞ~。なんなら俺より強くなるかもしれないな!」

自分に憧れを寄せてくれる愛娘に、ご満悦のアトラス。

アイナもアイナで、父親を尊敬の眼差しで見つめている。

…アトラス二世どころか。

姉弟合わせて、アトラス三世も夢じゃない。

頼もしいんだが、素直に喜べない俺達がいる。

「…軌道修正します。全力で軌道修正します。必ず私の遺伝子を勝たせてみせます」

「頑張れ。応援する」

全力でな。
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