神殺しのクロノスタシス2
…一時間後。

「はぁ、助かった…」

ずずず、とお茶を飲みながら、少年はベッドの上で座っていた。

…食堂に行って、おにぎり三つくらい作ってもらって。

お茶と一緒にそれを出したら、物凄い勢いでそれを食べ。

急に元気になった。

本当に、ただ行き倒れてただけなのか。

「助かったよ。もう死ぬかと思った」

「俺も、死んでるのかと思ったよ」

走馬灯見始めてたんだもん。

「ところで、ここは何処?」

自分が何処にいるのか、何処の誰に助けられたのかも分からないのか。

「イーニシュフェルト魔導学院だよ。知ってる?」

「…イーニシュフェルト…魔導学院…」

少年は、しばしぽかーんとして、

「…何で僕、ここにいるんだろう?」

そんなの、こっちが聞きたいわ。

記憶喪失か?あれだけ走馬灯見てたのに?

「君、一体何処から来たの?随分その…えっと、やつれてるみたいだけど」

少年の髪はボサボサで、着ている服も泥や垢にまみれている。

昨日今日浮浪者になりました、って体じゃないぞ。

随分長い間、放浪の旅をしてきたと見える。

「僕がいたのは、えーっと…。何て言ったかな…」

おい、大丈夫か。

「そうだ、北方都市のエクトルってところで」

エクトル?

国境近くの北方都市から、この王都セレーナまで?

「えっと…列車に乗って?」

「徒歩で…」

「徒歩!?」

アトラスじゃあるまいに。

まさか、エクトルから遙々、列車にも乗らず、徒歩で王都までやって来たのか。

そりゃ、こんなにやつれもする。

「途中で竹藪に迷い込んだり…。他人様の畑に入って、追い出されたり…」

「…」

「ヒッチハイクしようと思っても、軒並み断られて…。あっ、でも一回、豚積車に乗せてもらったりして、一緒にぶーぶー鳴いてみたり」

「…」

「王都が近くなって、そろそろかなぁと思ったら、『王都に連れてってあげるよ』って言う人がいたから、ついていったら、危うく外国に売り飛ばされそうになって…」

「…」

「…気がついたら、ここに来てた」

「…」

言うべき言葉が、上手いこと出てこないけど。

これだけは言わせてくれ。

「お前、よく無事に…王都まで辿り着けたな」

「あはは…。運が良かっただけだよ」

本当に運が良かったら、そんな放浪の旅はしないだろ。
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