神殺しのクロノスタシス2
放浪少年令月が、学生寮でシャワーを浴びている間。

俺とシルナは、あの少年をどうしたものかと話し合った。

「どうしようか、羽久…」

「…そうだな…」

選択肢は二つある。

一つ目。親元に返す。

追い出したと言っても、彼はまだ親の保護が必要な年齢であり。

彼の両親には、彼の養育をする義務がある。

別に死に別れた訳じゃないのだから、令月を列車に乗せ、エクトルにある彼の実家に送り届ける。

これが一つ目の選択肢。

で、二つ目。施設に預ける。

一つ目よりも、こちらの方が令月にとっては良いかもしれない。

令月は自ら家出したのではなく、無理矢理追い出されたのだ。

そんな令月の実家が、彼を送り届けたとして、また追い出さない保証はない。

いつ、また追い出されても不思議ではない。

追い出されなかったとしても、彼が家庭内で片身の狭い思いをし続けることは明白。

最早、虐待と言っても過言ではない。

虐待する親のところに、令月は帰りたいと言うだろうか。

本人が帰りたいと言わない限り、実家には帰さない方が良いと思う。

よって、施設だ。

ルーデュニア聖王国には、何らかの理由があって、親元にいられない子供や、両親のいない孤児の面倒を見る施設がある。

孤児院。児童養護施設。呼び方は何でも良いが、要するにそういう施設があるってことだ。

そこに、彼を預ける。

これが二つ目の選択肢だ。

どちらが良いのかは、俺達にも判断しかねる。

「どうしようかな…。親戚とか…預かってもらえないのかな?」

それは、俺も考えたが。

「頼りになる親戚がいるなら、わざわざ王都まで来ないだろ」

「…そうだよね」

それに、親戚がいたとして、令月の面倒を見てくれるかどうか。

厄介者が来た、と煙たがられるなら、実家にいるのと変わらない。

一族揃って魔導師だって言ってたしな…。魔導適性のない令月を、快く面倒見てくれるかどうか。

「やっぱり施設に預けるしかないのかな?」

「本人の意思にもよるだろ」

「それに、受け入れてくれる施設があるかも分からないね」

そう、そこもネックなのである。

基本的にルーデュニアでは、児童養護施設は「保護してくれる親、親類がいない児童」のみを入所の対象としている。

俺達は残念ながら、その辺にあまり詳しくはないのだが。

家から追い出したものの、令月には家族がいて、実家がある。

彼の実家のことは知らないが、多分経済的に困窮している訳でもない。

何が言いたいのかというと、つまり、令月が施設に入れるかどうか、分からないのだ。

親が虐待していると立証出来れば、手の打ちようもあるが。

別に殴られた訳でも、蹴られた訳でもない。

所謂、心理的虐待って奴だ。

立証するのは難しいだろう。

それに、そういう施設は何処の施設も定員いっぱい状態で、ただでさえ職員が足りてないのに。

親がいて、親類も他にいて。

殴る蹴るの虐待を受けている訳でもない令月を、受け入れてくれる施設が、あるだろうか?

しばしの沈黙の後。

「…本人が何て言うかは分からないけど」

と、シルナが口を開いた。

「いざとなったら、私の口利きで何とか、都合をつけるよ」

「…そうか」

あまり、使いたい手段ではないが。

シルナ・エインリーの名前を出せば、無理矢理にでも何処か、受け入れてくれる施設が見つかるだろう。

「とりあえず、本人にどうしたいか、聞いてみないと分からな…」

「戻ったよ」

「!?」

驚いて振り向くと、清潔な身なりになった令月少年が、そこに立っていた。
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