神殺しのクロノスタシス2

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 第三部3章 (4/39)

そして、そんなある日。

令月の、秘めたる才能が開花することになる。

そのきっかけは、俺とシルナが学院長室にいて。

令月少年が、同じ部屋で掃除をしていたときのことである。

「ねぇ羽久」

「あん?」

「ここにある、なんとか堂のチョコレート、食べて良いかな?」

「おー、食べろ食べろ」

「やったー」

「え、ちょ、良くないよ!羽久!勝手に許可しないで!」

慌ててシルナが止めるも。

「もぐもぐ」

既に食べてるのでノーカン。

「酷い…。私のお菓子コレクションが…」

これを機に、お菓子コレクションをやめることだな。

まぁ別に良いじゃないか。まだ子供なんだから。

菓子くらい食ったって。

よく働くしな。

「もぐもぐ」

口を動かしながら、本棚を整理する令月。

その令月が、不意に手を止めた。

「…これ」

「ん?」

「めしゅらしいはほうはね。ひはらはほうって、はんはひいたほほらい」

「口の中を空にして、もう一回言ってくれ」

全然聞き取れなかったぞ。

「もぐもぐ…ごくん。珍しい魔法だね。力魔法って、なんか聞いたことない」

あぁ。

最初から口を空にして喋ってくれよ。

どうやら少年、力魔法の本に興味が湧いたらしい。

「力魔法って何?火を噴いたり、水を吐いたりする魔法とは違うの?」

「違うな」

「違うね」

力魔法、まぁあまり一般的に知られている魔法とはちょっと、意味合いが違うかな。

「力魔法っていうのは、補助魔法の一種でね」

「…補助魔法?」

こてん、と首を傾げる令月。

何と言って例えたら良いものやら。

「とにかく、力魔法っていうのは、例えば、拳で敵を殴ったり、脚で蹴ったりするときに使うんだよ」

「そしたら、どうなるの?」

「力魔法のお陰で、ただの拳や蹴りでも、威力が桁違いに上がるんだよ」

シュニィとアトラスが、良い例だよな。

アトラスは、脳筋で、剣を振り回すのが大得意だが。

シュニィが、いつも力魔法で補助して、その威力を格段に上げている。

更にシュニィは、その力魔法に他の魔法…炎魔法や雷魔法など、敵の弱点を的確に突いた魔法を練り込んで、アトラスの剣にまとわせている。

アトラスの剛胆さと、シュニィの繊細さが光る、正にベストカップルって奴だな。

まぁ、アトラスが脳筋過ぎるせいでもあるのだが。

頼む、アイナ、そしてレグルス。

お前達、アトラスだけには似るなよ。

頑張れシュニィの遺伝子。

それはともかく。

「力魔法に興味があるの?」

「さぁ。僕はどうせ魔導適性がないから、こういうの読んでも別に…」

パラパラ、とページを捲る令月。

しばし、じーっとページを眺めてから。

「…それって、こういうこと?」

「え?」

令月は持っていたモップを手に。

思いっきり、本棚に向かって殴り付けた。

一瞬にして本棚が、くの字に曲がった。

これには、俺もシルナも、開いた口が塞がらなかった。

ただ令月当人だけが、きょとんとしているだけだった。





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