神殺しのクロノスタシス2
…とは、言っても。

「特に手掛かりがある訳じゃないんだもんな~」

「…」

でろーん、とデスクに突っ伏して、ルイーシュさながらのだらしない格好で。

一口チョコレートを摘まみながら、シルナは書類をボケーっと眺めていた。

…皆さん。このだらしない学院長の姿を見てください。

…とりあえず。

「…イレース呼んでくるわ」

とびきりのカツを入れてくれるだろう。

「ちょ、まっ、待って!」

「真面目にやれ。分かってんのか?状況。お前」

「わ、分かってるよ」

本当か?

今、頭の中も口の中も、チョコレートで一杯になってただろ。

折角とっ捕まえた禁書達も、犯人を見つけない限り、また封印を解かれる可能性があるんだぞ。

今すぐにでも、犯人を見つけなきゃならないってのに。

このだらしない学院長。

イレースに脳天殴られるくらいで、丁度良いのだ。

「でもねぇ、びっくりするくらい手掛かりがなくて…」

「…」

「今もほら、調査書を読んでたところなんだよ。王宮書庫で管理していた魔導師の調査書」

「あん…?」

要するに、封印されていた『禁忌の黒魔導書』を守っていた番人からの調書か。

まんまと怪盗に禁書の封印を解かれた番人が、どんな言い訳をしているかと思ったら。

要約すると、「気づかないうちに、いつのまにか盗られてました」ってなもんだ。

知らない者が聞けば、「なんと無責任な」と憤慨するところだろう。

…まぁ、気持ちは分かるよ。

だけどな、番人魔導師の気持ちも分かる。

『禁忌の黒魔導書』の管理を任された魔導師だ。そりゃあクュルナや吐月達のような、大隊長クラスの魔導師ではないけれど。

それなりに優秀な魔導師が、常に何人も配属されているはずだ。

それでも、彼らの目を掻い潜って、封印を解いた。

おまけに、何の証拠も残さずに、だ。

そんな芸当が出来るのは、並みの魔導師ではない。

番人の目が節穴なのではない。

敵が強過ぎるのだ。

「…一体何の為に、禁書の封印を解いたんだろうね」

「…さぁな」

そんなことして、一体何がしたかったんだか。

禁書の封印を解けば、最悪禍なる者が復活してしまうと…知らなかった訳ではなかろう。

「ルーデュニアの…いや、世界の秩序を乱したかったのか。それとも…」

…と、シルナが言いかけた、

そのとき。

「学院長先生~っ!」

数人の女子生徒が、学院長室に突撃してきた。
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