神殺しのクロノスタシス2
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第三部3章 (20/39)
まず、シルナ。
今年のシルナは、今までのシルナとは一味違っている。
いつもなら、年末になるとべそべそ泣き出して。
「生徒達に会いたい生徒達に会いたい会いたーい!」と、玩具買って欲しい幼稚園児みたいになってるんだが。
「だからね、ここの魔導理論を理解したら、力魔法以外の魔法が使えるようになるかもしれないんだよ」
「そうなの?何だか、僕に出来る気がしないんだけど」
「大丈夫!令月君、才能あるから!」
学院にたった一人残った期待の星に、特別授業を行っている。
シルナは良いとして。
令月は、折角の年末を勉強漬けで過ごさなければならないなんて、嫌だろうなぁ。
まぁ、シルナにべそべそ泣かれるのも面倒だから、良いけど。
で、次にイレース。
イレースが、一番忙しそうだった。
「あぁ忙しい忙しい。年末はやることが多くて困ります」
溜まった書類の整理に、精を出していた。
後で手伝おう。俺暇だから。
で、ナジュは何をしているのかと言うと。
「あーこたつ。こたつで食べるアイスって、何でこんなに美味しいんでしょうね?」
職員室に、一人用こたつを持ち込んで。
そこにすっぽり収まって、もぐもぐアイス食ってた。
お前、もう一回研修行ってこいよ。
性根叩き直さないと駄目だわ。
しかも。
「あー!ナジュ君それー!私が大晦日にこたつ入りながら食べようと思って、大事に取ってたアイス!」
学院長から略奪したアイスを食っていた。
やっぱり、もう一回研修行ってこいよ。
シルナも一緒に行ってこい。
考えることが一緒じゃん。
「あ、そうなんですか?なんか妙に美味しいと思ってたら」
「私のだよそれ!高かったんだからね!一個500円の!」
それはお高い。
一個500円のアイスを勝手に略奪するとか、もう戦争始まるレベルだぞ。
昔から言うだろ?
「食い物の恨みは怖い」って。
「良いじゃないですか。一杯残ってたし」
「今年は令月君もいるからと思って、買い足したの!ちゃんとナジュ君の分もあるんだから、勝手に摘まみ食いしない!」
「は~い」
はーいとか言いながら食べてるからな。
全然反省の色が見えない。
やっぱりもう一回研修行ってこいよ。
「…?」
そこに、首を傾げる令月がいた。
「どうした、令月」
「今年は僕がいるから、何で買い足すことになるの?」
「令月がいるからじゃん」
「…」
何だ、その「?」な顔は。
まさか、自分の分だけ用意されてないと思ってたのか?
アホくせぇ。
「それより!ほら、炎魔法の魔導理論!まずは基本から押さえていこう」
「あ…うん…」
「ってか年末だろ。大掃除は良いのか」
「私の分身が頑張ってる」
成程。
シルナの分身も、たまには役に立つことをするんだな。
「羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」
「被害妄想だな」
「…」
俺達の、ごく普通の日常会話を。
令月は、まるで初めて遊園地に連れてきてもらったみたいな顔で、ぽかんと聞いていた。
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