神殺しのクロノスタシス2
僕は生まれてから数年たつまで、世界に色があることを知らなかった。

まず最初に知った色は、赤だ。

赤。

ナイフで人を斬れば、赤い液体が流れるのだと知った。

「お前は筋が良い」と、人生で初めて褒められた。

いや、でも僕は道具であって、人間ではないから、道具である僕が喜ぶのはおかしいか。

包丁に向かって、「お前切れ味良いね」って言ってるのと同じ。

でも、ここでは道具であっても、褒められるのは良いことなのだ。

だって、考えてもみろ。

要らなくなったり、壊れた道具を、人はどうすると思う?

捨ててしまうだろう?

捨てられる不要と化したゴミを、溜めておく意味があるか?

僕は、僕達は必死だった。

捨てられない為に。生かしてもらう為に。

便利な道具として、いつまでも使ってもらう為に。幼い僕を育てたのは、一言で言えば、要するにマフィアの類だ。

彼らは、裏社会で要人を暗殺する為に、殺し屋を育成していた。

僕達が連れてこられたのは、暗殺のプロ、殺し屋を育成する学校だった。

そこで僕達が学んだのは、いかにしてターゲットに近づき、いかにして証拠を残さないようその場から立ち去るか。

いかにして、速やかにターゲットを殺すか。

それらを教え込まれた。

人を殺す方法を。

非常に過酷な訓練だった。

教官による暴言、体罰は当たり前。

拷問に耐える訓練の為に、何度も身体を傷つけられた。

爪を全部剥がされたこともあるし。

指の骨を全部折られたこともある。

それくらいで悲鳴をあげるような奴は、落ちこぼれだった。

でも皆、必死に耐えようとしていた。

だって、落ちこぼれは即「退学」にされてしまうから。

この学校は、暗殺者として、その生徒がどれだけ使えるか、どれほどに優れているかを選別する場所でもあった。

一ヶ月に一度、僕達はお互い殺し合わされた。

同じクラス、同じ学年のクラスメイトは、全員敵だった。

だって、この学校において、卒業出来る者は一人だけだから。

一ヶ月に一度の殺し合いで、生徒の数は一ヶ月ごとに半分になっていくのだから、仕方ない。

蠱毒の壺、って皆知ってるだろうか。

あれと同じだよ。

最後に残った、呪われた一匹。

それが、僕だった。
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