神殺しのクロノスタシス2
最初の頃、僕が最後の一匹になるなんて、誰も思っていなかった。

僕には、魔導適性がなかったから。

毎年「優勝」する生徒は、必ずと言って良いほど魔導適性を持つ、魔導師だった。

そして、一ヶ月に一度の殺し合いで、まず真っ先に淘汰されるのが、ただの人間。

要するに、魔導適性のない人達。

それは仕方ない。自然の摂理だ。

相手は杖に炎をまとわせて襲ってくるのに、こちらはナイフと、精々拳銃を支給されるだけ。

話にならない。

だから僕は、最初の一ヶ月で死ぬと思っていた。

運良く、戦わされる相手も魔導適性がなくて、素人同士の戦いだったら、何とか次の一ヶ月まで生きられるかもしれないけど。

それも長くは続かない。

いずれ僕は、魔導適性のある、つまり魔法を使える生徒と戦わされ。

そして、そこで死ぬのだろうと思っていた。

どうでも良かった。

こんな汚くて、赤い色しか見えない世界なんて。

生きててもしょうがないのだから、さっさと死んだ方が良い。

こんな腐った世の中、さっさと死んで、来世に賭ける方が、よっぽど期待出来る。

そして。

僕が入学して、最初の一ヶ月。

最初の殺し合いが行われた。

相手が魔法を使うクラスメイトだったら終わりだな、と思っていたが。

幸い、僕の対戦相手は、僕と同じく魔導適性のない落ちこぼれだった。

あぁ、良かった。

少しは生きる希望がありそうだ。

希望?

希望って何だ。僕は死にたいのか。それとも死にたくないのか?

死ぬならせめて、こんな無意味の死じゃなくて、誰かの救いになる死が良い。

なんて、贅沢を言える場所ではない。

僕は、最初の対戦相手。

昨日まで、一緒に授業を受け、一緒に訓練をこなしたクラスメイトを、殺した。

ナイフで、頸動脈を切断した。

彼は負けて、僕は勝った。

これで、僕は少なくとも来月までは、生きていける。

その日の夜、僕はふと思った。

人を殺したのは、これが初めてなのだということに。

でも、自然と何とも思わなかった。

僕らはずっと、綱渡りをしていた。

何処までも何処までも続く綱渡り。

綱の下には、地獄が待っていて。

ほんの少し風が吹いたり、揺らされるだけで、簡単に落ちてしまう綱渡り。

そんな日常で。

相手を突き落としてでも、自分だけは綱に掴まっていたいと願うのは、誰しも当たり前なのだから。
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