神殺しのクロノスタシス2
敵がとどめの一撃を入れようとした、その瞬間。

僕は寝返りを打ってそれをかわし、自分が先程まで使っていた、とっくに払い除けられていたナイフの柄を掴んだ。

まだ負けてない。

僕、まだ負けてない。

もう終わるものと思って立ち上がりかけていた「先生達」が、驚いて席に座り直した。

どうやらこの男、まだ諦めてないらしいぞ、と。

そうだ、僕はまだ諦めてない。

だって今、僕が死んだら。

僕は生まれてきた意味も何もない。

死は、いつだって僕の隣にあった。

いつ、のたれ死にしてもおかしくなかった。

あの男達に連れられて、内臓を全部抜かれて、家畜みたいに捌かれて殺されても、おかしくなかった。

この学校に来て、毎月の「選別試験」で、いつ殺されてもおかしくなかった。

それなのに、僕はまだ生きてる。

まだ生きてるんだよ。

僕の命は、一つしかない。

だったらこの一つの命に執着して、何が悪い。

こんな下らない人生を、一秒でも長く生きて、何が悪い。

生きてて、何が悪い。

「はぁ…はぁ…」

息を整える。心を鎮める。

目の前の敵を、殺すことだけを考えろ。

僕の持つナイフに、不思議な力が宿るのを感じた。

それが何なのかは、そのときの僕は考えなかった。

何でもない。

僕は、ただ生き延びることだけを考えていた。

他人の死体を踏みつけてでも、僕はたった一本垂らされた地獄の糸に、手を伸ばした。

そして、その糸を掴んだ。

瞬間、僕の全身に力が入った。

既に対戦相手の攻撃を食らって、手負いの身だったのに。

痛みなんて、まるで感じなかった。

勝つ。僕は勝つ。負けない。絶対に。

死んで、たまる、ものか。

僕は、ナイフ一本だけを持って、ゆらりと立ち上がった。
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