神殺しのクロノスタシス2
これには、対戦相手も驚いたようで。
しばしの躊躇いを見せた。
あ、今だ。
今お前、油断した。
何でこいつ、まだ立ち上がるんだろうとか。
何の技を出そうか、とか。
そんな下らないこと、考えてるから背後を取られるんだよ。
僕はナイフで、敵の背中を刺し。
そのまま腰にかけて、思いっきり切り裂いた。
生肉を、刃こぼれの包丁で切るのと同じ。
その肉が、今日はたまたま人間だったっていうだけの話。
絶叫が聞こえた。うるさかった。
僕のものじゃない。対戦相手の咆哮だ。
お前魔導師だろ。すぐ回復するんだろ。
だったら、ギャーギャー喚くなよ。
でも、これも隙だから。
あまりの痛みに、むやみやたらに攻撃を繰り出す対戦相手。
僕には、全部止まって見えた。
遅い。遅いよそれ。
僕は、あっという間にナイフの攻撃範囲に入り。
今度は、敵の心臓部を狙って、ナイフが埋没するほど強く、強く刺し込んだ。
不思議な力が宿ったナイフは、びっくりするほど切れ味が良くて。
あんまり強く押し込み過ぎたせいで、ナイフの切っ先が、敵の背中を突き破っていた。
返り血が顔にかかって、不快だった。
とりあえず、ナイフを抜こうとしたのだけど。
何せナイフの柄は血塗れでぬるぬるしてるし、骨や内臓に邪魔されて、なかなか抜けなかった。
「…もう良し」
「…は?」
試験監督が、僕を制した。
あぁ、そうだった。
僕、今、「選別試験」してたんだった。
忘れてた。
僕は生きてて、目の前ではさっきまで戦ってた相手が、目を開いて絶命している。
と言うことは、僕は勝ったんだ。
そのとき初めて、僕は自分の中にあるものを知ったのだ。