神殺しのクロノスタシス2
『アメノミコト』でも、僕が見るのは汚い色ばかり。

黒か、赤のどちらか。

それ以外の色を、僕は見たことがなかった。

それ以外の色が存在することすら、僕は知らなかった。

それはさておき。

僕はこれでも、『アメノミコト』では重宝されていた。

暗殺の成功率が、100%だったからである。

僕はどうも、人を殺すことにおいては、天才的な才能を備えていたようで。

ヘビのように気配を消し、相手が油断するコンマ一秒の隙も見逃さず。

一瞬にして、ターゲットの首を掻き切る。

ターゲットは、時に『アメノミコト』内のメンバーであることもあった。

『アメノミコト』にいる暗殺者が、どれくらいいるのか、正確な数は知らされていないが。

中には、暗殺に失敗して、のこのこと帰ってくる間抜けもいて。

そんな間抜けを消すのも、僕の仕事の一つだった。

僕は、一度も失敗したことはなかった。

暗殺者。

人を殺すことは、僕にとっての天職なのかもしれない。

学校を卒業して、『アメノミコト』に入ってから、二年。

食べたパンの数も、殺した人の数も分からないけど。

やがて僕は、『アメノミコト』の頭領お付きの、親衛隊の一人に任命された。

特殊な任務や、頭領の警護をする、『アメノミコト』の暗殺者の中でも選りすぐりの逸材という訳だ。

少しも嬉しくない称号だったが、任命されたものは仕方ない。

僕は頭領の親衛隊として、ただ命じられるがまま、暗殺の仕事を続けた。

そして、あの日。

僕は、頭領の部屋に呼ばれた。

いつもなら、ターゲットの写真、所在地を知らされるだけで。

ターゲットの素性なんて、暗殺者である僕には関係のないこととして、教えられなかった。

そう、僕は道具なのだ。

血の赤と汚ない色しか知らない、人を殺すだけの道具。

この道具が誰を斬り、誰を殺そうが、知ったことではない。

しかし。

その日だけは、違っていた。

いつも僕に指示を出すのは、サングラスとマスクをつけた黒服の男なのに。

その日僕は、暗殺組織『アメノミコト』の頭領直々に命令を受けた。

「イーニシュフェルト魔導学院の学院長を殺せ」

「…御意」

我ながら抑揚のない声で、そう答えた。

そう答えれば良いんだろう?

驚きもしなかった。毎日人を殺してるのに、そのターゲットが誰かどうかで、いちいち気持ちを変えたりはしない。

道具に感情はない。

「顔を上げろ」

頭領がそう言うから、僕は顔を上げた。

そこには、一枚の写真があった。
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