神殺しのクロノスタシス2
名前。

そういえば、名前をまだ決めてなかった。

国境を違法に越えるに際し、頭領付きの世話役の男は、何度も僕に念を押した。

「良いか、必ずやり遂げろ。この仕事だけは、絶対に成功させるんだ」

今まで、そんなに語気を荒らげることはなかった。

それなのに今回、彼がこんなに必死なのは、多分彼が頭領から直接指示されたからなのだろう。

失敗すれば、僕も、この世話役も殺される。

自分が殺されるのは別に怖くない。

死にたくないとは思わない。

殺したいとも思わない。

道具に、感情なんて必要ないから。

ただ、任務を遂行するに当たって、何か名前を考えなければならないのではないか、と思った。

だから聞いてみた。

「…僕、名前、何にしたら良いの」

「黙ってろ!騒ぐんじゃない」

…黙ってろさん。

騒ぐんじゃない君。

どちらも、名前としてはあまり使い道にならなさそうだ。

これまで僕は、ずっと番号か、コードネームで呼ばれていた。

生まれたときの名前なんて、呼ばれなくなって久しい。

良いんだろうか?生まれたときの名前を使っても。

特に指示はないし、それに…この機会を逃したら、僕は一生、名前で呼んでもらえないかもしれないし。

「…令月にしよう」

こうして僕は、数字で呼ばれる暗殺者から。

令月という名前を持つ、暗殺者になった。
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