神殺しのクロノスタシス2
初見で分かった。

この学院の教師が、実は四人しかいないのだということ。

僕が学院に来たときは、故あって一人は不在だったのだけれど。

残りの教師は、全部シルナ・エインリーの分身でしかない。

随分エコな経営をしているようだ。

それとも、意外に経営難なんだろうか?

知ったことじゃないが。

それよりも、僕はシルナ・エインリーが僕の予想を上回る人だということに、驚きを隠せなかった。

伝説の魔導師とまで言うのだから、きっと人を寄せ付けず、威厳に満ち、威風堂々たる貫禄のある人物かと思っていたら。

平気な顔をして学院内を歩くし、何ならスキップもするし、通りすがりの生徒にお菓子を配っている。

僕が演技してるのか、シルナ・エインリーが演技してるのか、分からないほどだった。

汚ない色しか知らない僕に、この学院はあまりにも眩し過ぎた。

こんな世界があるなんて思わなかった。

そこには、僕の知らない色がたくさんあった。

誰も知らない。身寄りもない僕を、この学院は受け入れてくれた。

生徒は生徒で、僕の両手が血に染まり、挙げ句の上に編入学でいきなり入ってきた僕にも、親切に接してくれた。

エクトルから歩いて来たんだ、と僕が言うと、大変だったなぁとか、苦労したんだなと同情してくれた。

何だか不思議な気分だった。

イーニシュフェルト魔導学院にいる間中、不思議な気分だった。

今まで味わったことのない感覚。

何だか、雲の上でも歩いてるみたいだった。

初めてのクリスマスツリー。クリスマスプレゼント。

そして、平和に過ごした年末年始。

帰省する先のない僕は、放っておかれるだけだと思っていた。

でも、学院長含め教員達は、僕を爪弾きにはしなかった。

むしろ率先して、僕を仲間に入れてくれた。

こんなことは初めてだった。

ここには色んな、綺麗なものがある。

僕はそれを知った。

汚ない世界しか見てないから、知らなかっただけで。

この世界には、僕の知らない美しいものがあるのだ。

そして、一度その色彩を見てしまったら。
< 654 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop