神殺しのクロノスタシス2
僕は一人、心の中で葛藤した。

『アメノミコト』に与えられた猶予は、三ヶ月。

残り時間は、ごく僅か。

この僅かな時間の中で、僕はシルナ・エインリーを殺さなければならない。

…僕が。この手で。

あんなに優しくしてくれた人に。

恩を、仇で返すのだ。

今まで、僕は人を殺すことに躊躇いを覚えたことはなかった。

それなのに僕は今、人生で初めて、怖いと思っている。

任務に失敗して、『アメノミコト』に粛清されることは怖くない。

そんな心配は、全くしていない。

組織が僕を必要としないと言うなら、殺されれば良いのだ。

粛清なんて怖くない。

怖いのは、あれほど優しくしてくれた学院長を、この手にかけなければならないこと。

この手で、あの人を殺さなければならないことだ。

僕の世界に色彩を教えてくれた人が、いなくなってしまったら。

僕はまた、あの汚ない色の世界に逆戻りすることになる。

それが怖かった。

何をやってるんだ、僕は。

今まで散々人を殺しておいて、今更たった一人の人間を殺すことに、何の躊躇いを抱く必要がある。

殺さなければならない。殺さなければならないと、頭の中で何度ループしても。

僕は、実行に移せないでいた。

そんな時だった。

僕をルーデュニアに送り込んだ、例の世話役の男が僕を訪ねてきたのは。
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