神殺しのクロノスタシス2
下校時刻が過ぎ、全員が学生寮に入った後。

僕は、呼び出された場所にこっそりと抜け出した。

「…何をやってる。この愚図が」

およそ三ヶ月ぶりに聞く第一声が、これだった。

愚図。

僕は愚図なんだろうか。

「いつまでかかってるんだ。残された時間はもうないんだぞ!」

彼も必死だった。

任務が失敗したら、この人も連帯責任で殺されるのだから、それも当然か。

「さっさと殺せ!」

殺せと言われても。

「…思いの外、ガードが固くて」

僕は、そう言い訳した。

ガードなんて、警備なんて、この学院において、ザラでしかない。

放課後になれば、生徒達を自ら自分の部屋に呼びたがり。

生徒の人気が、最近新任の教師に移ってしまったと半泣きになってるくらい。

そんなところに僕が訪ねていったら、きっと熱烈に応えてくれるだろう。

「早くやれ。頭領様がお怒りだぞ」

あんたもな。

「自らの存在意義を忘れるな。お前は人を殺すしか能がない、ドブ川から拾った、ゴミクズみたいな人間なんだ」

「…」

「そんなお前が、何故生かしてもらってると思ってる?お前に暗殺の技能があるからだ」

…知ってる。

そんなうだうだ言わなくても分かってる。

「それが出来ないなら、お前に存在価値はない。分からないとは言わせないぞ」

「…」

「まさか、足抜けしようと思ってるんじゃないだろうな。馬鹿を言うな。お前はルーデュニア人ではない。骨の髄まで汚物で固められた、薄汚い人間。最早人間と呼ぶにもおこがましい。『アメノミコト』は失敗した者を許さ、」

「…うるさい」

ぐだぐだぐだぐた、うるさいことを喚くな。

こっちだって分かってるんだよ。

「邪魔なんだけど」

「お前が早く結果を出さないからだ」

「…」

「頭領様は、イーニシュフェルト魔導学院そのものを嫌悪しておられる。早く仕事をやれ」

「分かってる。邪魔だから、さっさと消えてくれないかな」

「貴様…」

黒服の男は、まだ何か言いたそうだったが。

やがて舌打ちを残して、その場を去った。

…本当に。

僕も、身の振り方を考えなきゃならないな。
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