神殺しのクロノスタシス2
『アメノミコト』で、裏切り者が出たら、どうなるか。

痛いほどによく分かっている。

裏切り者の始末だって、僕の仕事の一つだったから。

裏切り者は、地の果てまで追いかけてでも殺す。

それが、『アメノミコト』の鉄則だった。

僕は、突然ハッとして気づいた。

…裏切りなんて、どうして僕はそんなことを考えたんだろう。

今まで、裏切りなんて考えたこともなかったのに。

裏切り者がどうなるか、誰よりもよく分かっているはずなのに。

僕は何を考えてる。

そんな馬鹿な考えはやめろ。裏切りなんて、絶対に考えてはいけない。

『アメノミコト』は、裏切り者を許さない。

裏切り者が出たら、地の果てまで追われる。

そして、組織に連れ戻され、嬲り殺しにされ、遺体は山に捨てられ、野犬や熊のエサになる。

安穏と生きられるはずがない。

大体そんなこと、僕が殺した人々が許さない。

僕みたいな、人を殺すことにしか値打ちのない人間に、どうして人並みの幸せを願えようか。

足を洗うなんて、出来る訳がない。

出来る訳がないんだよ。

どんなに眩しく見えても、僕は、僕だけは、そちらには行けないのだ。

僕だけは。

「…やらなきゃ」

もう、時間がない。

僕に残された時間は、あと三日。

それまでにターゲットを殺せなかったら、僕は裏切り者とみなされる。

言い訳も弁明も、あの頭領には通じない。

三月で殺せと言われたのだから、それを達成出来なかったら、僕はもう役立たずだ。

「殺らなきゃ…」

何でだろう。力が入らない。

いつもみたいに、何とも思わずに人を殺すことが出来ない。

何で?どうして?

あぁ、勘が戻らない。

いつもと同じことをすれば良いだけなのに。

どうして、僕の手はこんなにも震えるのだろう?
< 658 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop