神殺しのクロノスタシス2

side令月

──────…僕は、一瞬にしてパニックに陥った。

何故だかは分からないけど、僕が暗殺者であることを知られてしまった。

今夜この場所で、イレース・クローリアの命を奪おうとしていたことも、知られていた。

何処からその情報を得た?

有り得ない。僕は、何のヘマもしていないはずなのに。

「あー、なんかこういうときって楽しいですよね」

「何を満面の笑みで眺めてるんだ、お前…。仮にもイレースの命が懸かってたんだぞ」

「心配されなくても、暗殺されると分かっていれば、簡単に撃退出来ます」

どうする。どうやってこの場を切り抜ける?

何で知られていた?何処から?

「あぁ、無理無理。なんとか窮地を逃れようと頑張ってるみたいですけど、それ全部無意味なので」

「…!?」

な、なんだこの男は。

とにかく暗殺は失敗した。捕まえられて、拷問されるより、先に逃げ、

「あー羽久さん」

「はいよ」

「あっ…ぐっ…!」

羽久・グラスフィアの時魔法が、僕の足を止めた。

こうなっては、もう袋のネズミだ。

「どうやら、自分の立場って奴が分かったようですね」

ナジュ・アンブローシアが、僕に向かってにっこりと微笑んだ。

「初めまして、『アメノミコト』の暗殺者さん。僕は読心魔法の使い手、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアです」

「…!!」

そのときになって、僕は。

初めて、自分が何を相手にしていたのか、理解したのだった。

抵抗しようかとも思った。

だが、相手は聖魔騎士団魔導部隊の大隊長をやっているような実力者。

おまけにその中の一人は、僕の心の中を見透かしているのだ。

対する僕は、ナイフを奪い取られ、イレース・クローリアによって、ゴツい手錠をかけられた。

おまけに、時魔法の使い手羽久・グラスフィアが、僕の一挙一動を見張っていた。

最早、戦う手段がない。

大体、読心魔法なんて、聞いたこともない。

読心と言うからには、心の中で考えたこは、全部相手に筒抜けなのだろう。

「えぇ、そういうことです」

僕の心を読んで、彼はにっこりと笑った。

その笑顔が、糞腹立つ。

僕は学院に戻され、拷問部屋にでも連れていかれるのかと思ったら。

何故か、学院長室に連れていかれた。

両手は縛られたままだが、椅子に座らされた。

何だこの椅子は。電気椅子か?

「心配しなくても、普通の椅子ですよ」

「…ちっ」

いちいち心の中を読まれるのが、不愉快で仕方ない。

これじゃ、隙を見て逃げることも出来ない。

「さて…。じゃあ、話を聞こうか」

シルナ・エインリー。

ついさっきまで、僕が殺そうとした相手が、僕の前に座った。
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