神殺しのクロノスタシス2
「…僕を、殺して欲しい」

もう、そうするしかない。

僕に残された選択肢は。

今ここで殺されるか、『アメノミコト』に帰って殺されるか。

いずれにしても、僕に死以外の選択肢はないのだ。

今死ぬか、後で死ぬかの差でしかない。

どうせ死ぬなら、今ここで、精々苦しまずに殺して欲しいところだが。

暗殺者の僕が、それを望むのは贅沢というものだ。

今まで、手段を選ばずに他人を殺してきたのに。

自分だけは楽に死にたいなんて、そんな贅沢、許される訳がない。

「ふーん…。暗殺屋も結構大変なんですねぇ」

と、他人事のように言うナジュ・アンブローシア。

僕が失敗したのは、お前のせいなんだけどな。

「僕のせいじゃないですよ、失礼な。敵がどんな魔法を使うか、事前に調査してなかった自分の落ち度でしょ」

その通り。

ぐうの音も出ない。

「まぁナジュの性格の悪さも筋金入りだけどな」

「ひどーい。僕が教えなかったら、危うく皆さん、暗殺されるところだったんですよ?」

「それにしたって、制限時間ギリギリまで黙っとくのは意地が悪いだろ」

「だってこの人も、これくらい追い詰められなきゃ、ボロ出してくれないじゃないですか」

「…」

歯痒い。

馬鹿にされているようで、非常にムカつく。

実際馬鹿にしてるし。

「まず言っておくけど」

と、学院長。

「私は、君に殺されてあげるつもりもないし、君を殺すこともしないよ」

…あくまで、自分の古巣に…『アメノミコト』に帰ってから、勝手に殺されろってか。

「なんか勘違いしてるみたいですよ、学院長」

「やっぱり?」

「ちゃんと言ってあげないからだよ。私は、君の味方だって」

「…!?」

味方?

味方って…どういう意味だ。

「ナジュ君から、全部聞いたんだよ。君のこと」

「…」

にや~と嫌な笑みを浮かべる、ナジュ・アンブローシア。

この男、両手を縛られてなかったら殺してる。

「好きで、『アメノミコト』に入った訳じゃないんでしょ?」

「…それは…」

そう…だけど。

でも。

「馬鹿にするな。『アメノミコト』に入ってる連中は…大体皆そうだ」

自分から望んで、組織に入った者なんてほとんどいない。

皆僕みたいに、売られたり、貧しさのあまり他に行くところがなくて、仕方なく入っただけ。

僕だってそうだ。

あの人買いに売られたから、『アメノミコト』に入っただけで。

だからって、ターゲットに同情されたくない。

僕だって、暗殺者には暗殺者の、プライドってものがあるのだ。

「安いプライドですね。死んだら皆終わりなのに」

「…うるさい」

こんな安いプライドでもなければ、生きていけない者の気持ちが分かってたまるか。

「ナジュ君。君は言葉が悪い」

「はいはい分かりました。通訳必要なとき以外は黙っときますよ」

一生喋るな。

あと、そのにやついた顔をやめろ。
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