神殺しのクロノスタシス2
な…なん…。

僕は暗殺者で、自分がターゲットになってるって分かってるのか。

「…命に大小はないけどね」

シルナ・エインリーが、静かに言った。

「君が犯した罪なんて、私達のそれとは比べ物にならない。しかも君は、自分の意思ではなく、他人に強制されて犯した罪だ。それは罪とは呼ばない」

「でも…僕は…」

僕はジャマ王国の名家の生まれで。

でも魔導適性がないから、『アメノミコト』に売られて、そこで暗殺者としての訓練を受けて。

一緒に売られた仲間達を、残らず殺して。

命じられるがままに、多くの命を奪って。

それなのに、僕がのうのうと幸せに生きてるなんて、そんな…。

「…君には役目がある。二つの役目が」

「…二つの…役目…?」

「一つ目は、自分が殺した人の命の重みを背負うこと」

「…」

「二つ目は、その人の分も、何倍も深く深く長く長く、強く自分の意思を持って、幸せに生きることだ」

「…そんな、ことが」

そんな奇跡みたいなことが。

夢物語みたいなことが。

「許されるの…?こんな、僕に…」

「許します。誰が何と言おうと、私が許します」

あなた一人に許されたって。

「そして精一杯生きて、精一杯生き抜いて、死んだ後、自分の殺した人々に誇れる人生を送りなさい。それが君に出来る、唯一の贖罪だから」

そんな、ことが。

許されて良いのか。

そんな都合の良いことだ。

あなたが許しても、僕が殺した人はきっと、僕を許さない。

「…僕も、そう思います」

僕の心をずっと読んでいたナジュ・アンブローシアが、口を挟んだ。

「僕と比べたら、あなたのそれなんて、罪の内には入らないですけど…。それでも、あなたが殺した人は、あなたを許さないでしょう」

…当たり前だ。

殺された人は、彼らが持っていた幸せに生きる権利を、奪ってしまったのだから。

他でもない、この僕が。

「だけど、だからこそ生きるんです。生きることが罰ゲーム。毎晩枕元で罵られながら、精々幸せに生きてみようじゃありませんか」

「…出来る?僕に…そんなことが…」

「出来るよ」

シルナ・エインリーが。

僕に、手を差し伸べた。

何をやってるんだよ、あなたは。

僕は、あなたを殺しにきたんだよ。

分かってるのか。ねぇ、本当に分かってるのか。

そんな隙を晒して良いのか。

「こんな…血にまみれた両手で…」

幸せになりたいなんて、どうして言えようか。

それなのに。

「そんな、血にまみれた両手で」

シルナ・エインリーは、しっかりと僕の両手を取り。

ぎゅっと、握り締めた。

温かいと思った。

「生きていくんだ。誰かを救い、自分を救い。誰かの幸せになり、自分が幸せになる為に」




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