神殺しのクロノスタシス2
改めて、自分の決断に寒気がする。

もう一度、考え直した方が良いのではないかと思うほどに。

「…僕、ここを出ていく」

「は?」

そうしたくはないけれど。

他にそうするしかない。

「何を言ってるの、令月君。君は、れっきとしたイーニシュフェルト魔導学院の生徒であって…」

「ついさっき、寝返るって決めたばかりじゃないか。もう心変わりか?」

いや、そうじゃなく。

「そんなに心配してるんですか?『アメノミコト』とやらの追っ手に」

人の心を勝手に読む天才が、またしても勝手に僕の心を読んだ。

もう、こいつに近寄りたくない。

「成程…。暗殺専門組織『アメノミコト』ですか…。私も、詳しくはありませんが、聞いたことはありますね」

と、イレースさん。

「『アメノミコト』は任務の失敗を許さない。でもそれ以上に…裏切りだけは、決して許さない」

自分自身、体験しただけによく分かる。

僕は何度も、『アメノミコト』を裏切って逃げようとしたかつての仲間を、悉くこの手に掛けてきた。

「『アメノミコト』から逃げようとして、成功した人物を、僕は一人も知らない…」

僕が『アメノミコト』に入る前から、ずっと、だ。

任務の失敗よりも、裏切りの方が余程怖い。

世話役の男は勿論、頭領は確実に僕を許さない。

必ず、刺客を差し向けてくるだろう。

組織の威厳を保つ為にも。それこそ、総力戦になるとしても。

そもそも僕は、ルーデュニア聖王国の人間ではない。

現在僕がここにいるのは、確かにイーニシュフェルト魔導学院に籍はあるものの、それは捏造した戸籍を使ったもの。

要するに僕は、不正入国者であって。

本当の国籍は、ジャマ王国にあるのだ。

そして『アメノミコト』は、ルーデュニア聖王国の組織ではない。ジャマ王国の非合法組織だ。

「お前達の国に令月って子供が不正入国してるから、今すぐ祖国に返せ」と言われれば、それまで。

「確かに、令月は正式にはルーデュニア人じゃないのか」

「だから、僕はしばらく身を隠して…」

あらゆる手段を尽くして、無理矢理にでもルーデュニア聖王国の国籍を取得して、それから…。

しかし。

「あぁ、国籍のことなら心配しなくて良いよ。私の方から、フユリ様に頼んであげるから」

「は!?」

フユリ様?

フユリ様と言ったら…フユリ・スイレン女王のことか?

ルーデュニア聖王国の女王の…。

「この人、フユリ様にもパイプ持ってるんですよ。こっそり札束握らせて、あなたの国籍くらい、すぐにでも取得してくれますよ」

「ナジュ君、人聞き悪い。私、札束握らせたりなんかしないもん」

…こ、この人達。

本当に、寝返って大丈夫なのか?

今更心配になってきたぞ。
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