神殺しのクロノスタシス2
とりあえず…国籍は何とか出来ると仮定して。

「仮定しなくても、確定ですって」

「ちょっと黙ってて読心野郎」

考えがまとまらなくなるだろうが。

一回毒打ち込んでやろうか。

「それを差し引いても、『アメノミコト』はどんな手段を使っても、僕を追ってくるはずだ」

国籍なんか、国境なんか関係ない。

国境なんて、僕が越えてきたように、簡単に越えられるし。

裏社会に根強いパイプを持つ『アメノミコト』。それは、ジャマ王国だけに限らない。

隣国であるルーデュニア聖王国にも、当然通じている。

いかなる手段を以てしても、ヘビのように絡み付き、僕を追ってくる。

裏切り者を、八つ裂きにする為に。

かつて僕が、裏切り者を八つ裂きにしてきたように。

「『アメノミコト』には、そんなに強い暗殺者がいるの?」

「詳しいことは…僕も聞いてない」

「役に立ちませんねぇ。自分の古巣なのに」

口縫い合わせるぞ読心野郎。

「秘密主義なんだよ。組織間のメンバーも、素性も」

「あぁ成程。面倒臭いシステムなんですね」

だから困ってるのだ。

もし、『アメノミコト』に、僕の手に負えない暗殺者がいたら…。

いや、追っ手が一人だけなら、まだマシ。

何人もの暗殺者が、同時に攻めてきたら。

そうしたら僕は多分、終わりだ。

僕は他の暗殺者の手の内を知らない。

同時に、他の暗殺者も僕の手の内を知らないはずだけれど、僕が裏切り者と化した今、最早組織は僕の存在を隠す必要はない。

僕がどんな技を、どんな武器を使うか、彼らは熟知した上で、僕を追ってくるはずだ。

圧倒的不利に決まっている。

いや、いや待て。

それでもまだ、マシなのだ。

僕は、咄嗟に自分の考えたことに寒気がした。

『アメノミコト』だって、僕が逃げることは分かるはず。

僕が身を隠し、そう簡単に尻尾を出さないことは知っている。

身を隠し、姿を現さないとなれば、どうするか。

誘き寄せれば良いだけだ。

人質なら、いくらでもいる。

今ここに、僕の周りにいる人々が。

イーニシュフェルト魔導学院の生徒達が。

間違いなく、彼らが人質にされる。

僕が出てこなければ、イーニシュフェルトの人々が人質にされる。

生徒の指を一本ずつ切り落として、指が終わったら手足を切り落として、耳を切り落として、目を潰して。

それが終わったら、また別の生徒の指を一本ずつ、一本ずつ…。

僕が大人しく投降するまで、延々とそれが続くのだ。

『アメノミコト』は、ルーデュニア聖王国の無辜の人々が死ぬことなんて、一つも気にしない。

裏切り者を炙り出す為なら、何でも…。

想像しただけで、僕は身体が震えそうにな、

「あはははは」

「…何笑ってんの…?」

ちょっと、ドン引きなんだけど。

この読心野郎、頭大丈夫?

「いや、あまり大丈夫じゃないですけど」

だよね。

「とはいえ、ナジュが笑うのは分かります。ただ品位に欠けるだけで」

「まぁ、気持ちは分かるよな」

…この人達も、何を言ってるんだ?

脅しだとでも思ってるのか?

「『アメノミコト』は本気だ。裏切り者を殺す為なら、手段は選らばな…」

「心配要らないって言ってるんだよ、令月」

と、羽久。

「心配要らないって、何が…」

「この男が、ルーデュニア国民を…ましてや、自分の生徒を傷つけさせるような真似をさせると思ったら…大間違いだ」

「…!?」

驚いて、シルナ学院長を見ると。

彼は、不敵に微笑んでいた。

何だろう。何なんだろう。

僕はもしかして。

何か、とんでもないものを味方にしてしまったのでは?
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