神殺しのクロノスタシス2
…イーニシュフェルト魔導学院に来たとき。

僕は浮浪者の演技をしていただろう?

あれは、そういう「設定」だった。全部演技で、作り話だった。

でも、あれはあながち間違いではないのだ。

僕が生まれたのは、ジャマ王国の名家。

黒月家という、ジャマ王国でも有数の名家だった。

両親揃って魔導師。これも間違いじゃない。

兄も姉も、弟も妹も魔導師。

黒月家の分家の人間もまた、とにかく一族郎党、皆魔導適性に恵まれていた。これも事実。

そして、そんな一族の中で、唯一僕だけが魔導適性に恵まれなかった。

でもそこからは、ほぼ全て嘘だ。

黒月家では、物心つく頃には魔導適性の有無を「検査」される。

だが、僕には魔導適性はなかった。

僕は学院長に嘘をついた。魔導適性がなかったから、実家で肩身の狭い思いをしながら、13歳になるまで過ごし。

中学に上がるときに、親に魔導学院に入るよう迫られたと。

そんなものは作り話だ。

現実は、そんなに甘くなかった。

僕の両親は、僕に魔導適性がないと知るや、僕に役立たずの烙印を押し、人買いに売り飛ばしたのだ。

あのとき、僕はまだ3歳だった。

だから正直、両親の顔はあんまり覚えてない。

ただ、痛かったのを覚えている。

痛みというものは、脳髄に焼き付けられたように覚えている。

魔導適性のない役立たず、無能、恥晒し。

黒月家の名前を名乗ることさえ、僕には許されない。

散々殴られて、蹴られて、投げ飛ばされて痣だらけになって。

唇はタラコのように、両目は開けられないほどに腫れ上がっていた。

その状態のまま、両親が呼びつけた人買いに売られた。

知りたくもないのに、後で教えられた。

そのときの僕の売値は、10銭にも満たない額。

ルーデュニア聖王国では、小さな缶ジュースが一本、買えるか買えないかくらいの額だったという。
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