神殺しのクロノスタシス2
そんな値段で売られた僕は、最早人間ではなかった。

当たり前だ。

売られてしまった以上、僕に人としての価値はない。

ただの売り物だ。商品だ。

どんなにがらくたで、使い道がなくて、ゴミ同然だったとしても、商品は商品。

そして商品は、一様に店頭に並べられる。

僕は同じように売られた子供達…いや、商品の中に混じって。

両足と両腕を縛られたまま、地面に座らされて、誰かが買ってくれるのを待っていた。

僕を買った人買いは、そういう廃品のような子供達を専門に、売り物にしていた。

ドブをさらってふるいにかけ、残った紙や金物を安値で売る、クズ拾いみたいな仕事だ。

朝になると彼は、犯罪者のように繋がれた僕達を、人通りの多い道端に連れてきて。

藁で作ったムシロを敷いて、そこに並べて座らせ。

タダ同然で手に入れた僕達を、少しでも高く売り付けようと。

通りを歩く人々に、大きな声で呼び掛けていた。

その声を、今でも覚えている。

「ちょっとお兄さん、どれか買ってかないかい。安くしとくから」

「そこの奥さん、飯炊きに一人、家で使ってみないかい」

「小間使い、雑用仕事、畑仕事は勿論、力仕事なら何でもござれだよ」

売る者も、買う者も、僕達を同じ人間だとは思ってない。

タダ同然で手に入れた癖に、いざ売買のときになると、目くそ鼻くそみたいな値段を競い合うのが、酷く滑稽だった。

横に繋がれている仲間が、次々と売られていく中。

僕を買う者は、なかなか現れてはくれなかった。

それも仕方ない。

僕はまだ3歳と幼く、雑用仕事をさせるにしても、家畜の世話をさせるにしても、しばらくは家において育てなければ、何の役にも立たなかったから。

3歳というのは、商品にしては、あまりに欠陥品だった。

これが女なら、稀に通りかかる、そういう趣味の人間が買っていくこともあるが。

僕は男だったから、そんな理由で買われることもない。

ろくな商品価値もない僕。

生まれてきた意味も、生きている意味もない僕。

そんな僕を買ったのは。

他でもない、『アメノミコト』の頭領だった。
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