神殺しのクロノスタシス2

sideシルナ

───────…確信があった訳じゃなかった。

でも、風の噂に聞いたことがあった。

私だって、伊達に長生きをしてない。

ジャマ王国のとある暗殺組織が、悪逆非道なやり方で、「優秀な暗殺者」を育てていると。

もしかしたら、と思った。

だから、令月君には隠して、事を片付けるつもりだった。

でも、間に合わなかった。

まさか、頭領本人が出てくるとは。

そうまでしても…便利な駒を…失いたくないと言うのか。

「令月君!落ち着くんだ!大丈夫だから、君は大丈夫だから!」

「嫌だ嫌だ嫌だ、ごめんなさい帰ります。帰りますから、お願いしますあぁぁぁ、痛い、痛いの嫌、嫌ぁぁぁぁ!」

令月君は、怯え、泣き、喘ぎ、必死に許しを乞うていた。

なんという。

なんということを、こんな幼い子供に。

「落ち着け令月!大丈夫だ!」

羽久が、令月君に駆け寄って背中をさすった。

だが、一度発動した暗示は、簡単には消えない。

ましてや、暗示をかけた本人が、目の前にいるのに。

「ごめんなさいごめんなさい。ごめんなさい許して、許してくださいお願いしますお願いします。僕帰るから許して。嫌だ、痛い痛い痛いぃぃ…」

「令月!しっかりしろ!」

羽久が、懸命に呼び掛けているのに。

「令月」

『アメノミコト』の頭領が一声、令月君の名前を呼ぶと。

錯乱していた令月君は、身体をびくりとさせて硬直した。

「儂に逆らった罰だ。己の指を折れ」

「!?」

私も羽久も、絶句したが。

「…はい」

令月君は驚くほど静かに、自分の左手の小指をバキッ、と折った。

その顔に、痛みも感情も、何も感じられなかった。

まるで、操り人形のように…。

「やめろ令月!あんな奴の言うことは聞くな!お前はルーデュニアで…」

「誰が一本で良いと言った?全て折れ。一本ずつだ」

「…はい…」

バキッ、バキッ、と順番に指を折る令月君の手を。

私は、固く握り締めて止めた。

「…もう良い」

もう、従う必要はない。

「もう良いんだよ令月君」

よく分かったから。

充分に、よく分かったから。

君の苦悩も、苦痛も。

そして。

「…お前が最低の下衆であるということも」

私は、その老人を睨み付けた。
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