神殺しのクロノスタシス2
私だって、人のことは言えない。

私だって、負けないくらい最低の下衆だ。

だけど。

同じ教育者として、私はこの男を許せない。

「恐怖と痛みで、こんな子供を服従させるなんて…」

どれだけ怖かったことだろう。

どれだけ痛かったことだろう。

どれだけ辛かったことだろう。

たった10年と少ししか生きていない、親の愛情も知らない子供に。

他人を殺すことと、服従することだけを身体に叩き込み。

道具として使い捨てようとする、その腐りきった性根。

私だって、教え子を生け贄に捧げようとした最低の人間だ。

それは分かってる。

でも、この男だけは許せない。

この男は、令月君に恐怖と痛みと服従心以外、何も与えなかった。

生きる意味さえも。

「令月君は私が預かる。お前には渡さない」

「勝手なことを。異国の呪い師風情が」

その嗄れた声が響く度。

令月君は、ぶるぶると身体を震わせていた。

そうだね、怖いんだね。

でも大丈夫。

君を縛る鎖を、私が断ち切る。

「儂らには儂らの秩序がある。余計な口出しをするな」

「黙れ。何も知らない子供を、洗脳し、殺人兵器に育てることの、何が秩序だ」

そんなものは、秩序でも何でもない。

「綺麗事だけでは生きて行けぬということよ。その子供もそう。その子の親は、我が子が物心つくかつかぬかの幼子のときに、ちり紙一枚ほどの値で売り飛ばした」

「…」

「そして、同じくちり紙一枚ほどの値で売られていた。それでも買ってやらねば、今頃はとうに、細切れにされて豚の餌にでも混ぜられていた。そんな虫けらのような命に、儂は価値を与えてやったのだ」

「…」

「大出世ではないか。え?令月の親に見せてやりたいくらいだ。お主らがちり紙のように売り飛ばした子が、今では我が『アメノミコト』の精鋭に育った。名誉なことだ」

…へぇ。

何処かで、聞いたような話だね。
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