神殺しのクロノスタシス2
そのときだった。

僕の人生の、一番最初の記憶が蘇った。

見上げた両親の、酷く不愉快そうな顔。

僕に魔導適性がないと分かったときの、両親の不愉快そうな顔。

どうしてそんな顔をするの。

どうして僕が生まれてきただけで、喜んでくれないの。

どうしてありのままの僕を、愛してくれないの。

呼びつけた人買いに、僕を売るときの両親の顔。

僕は泣いていたのに、両親は泣いてなかった。

厄介払い出来て、せいせいしたみたいな顔して。

やめてよ。

何でそんな顔をするの。

僕に何の才能もなくても、僕を必要としてよ。

贅沢だって?

贅沢な願いだなんて分かってる。

でも僕は、我が儘だから。

生まれてきただけで、愛して欲しいんだよ。

じゃあ、もう、どちらを選べば良いのかなんて決まってる。

頭領は、僕じゃなくても良い。

でも学院長は。

シルナ・エインリーは。

「…ねぇ、学院長」

「うん?」

「僕がもし、魔導適性もない癖に、あなたの学院に不正入学して、ライターや水風船やスピーカーで偽装して、入学した後にそれがバレたとしたら」

「その前に気づくと思うけどね、普通」

だろうね。

でもまぁ、仮の話。

「そのときあなたは、僕をどうしますか」

「…うーん…」

学院から叩き出す?

家元に送り返す?

僕を捨てて、他の生徒を入学させる?

「本当に私がそんな方法で騙されてたんなら、とりあえずイレースちゃんと羽久とナジュ君を呼んで、ひとしきり笑って、それから君を学院長室に呼んで、よくぞ私達をここまで欺いたと褒めて、一緒にお菓子を食べる」

「…」

…何で?

「その後、君にどうしたいか聞く。実家に帰りたいなら帰すし、帰る場所がないなら、そのまま学院にいれば良い」

「…魔導適性もないのに」

「だから何?イーニシュフェルト魔導学院の生徒は、皆大事な私の教え子だよ。魔導適性があろうと、なかろうと」

「…」

「私はナジュ君じゃないから、君の心は読めない。だけど、君と同い年の生徒をこれまで、大勢育ててきた。だから今、君が何を言って欲しいのか分かる。本来なら君の両親が言うべき言葉を、代わりに私があげる」

…僕の、欲しい、言葉?

そんなの僕にも分からないのに。

じゃあ、どうしたら良いのか教えてよ。僕がどうするべきなのか、これからどうしたら良いのかを…。

「令月君」





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