神殺しのクロノスタシス2
小難しい言葉を色々言ってるが。

要するに。

ルーデュニアが、ジャマ王国に対して、

「お前、自分の国の子供を売り買いして、暗殺者に仕立てて、うちに寄越してきたそうじゃないか。この始末、どうつけてくれるつもりだ?大体お前らのやること残酷過ぎるだろ」と。

チクチク嫌味ったらしく攻撃するのは良いとして。

ジャマ王国がそれに対し、

「うるせぇうちの国のやり方にいちいち口出すな」

と、突っぱねてくれるなら良いのだが。

「済みませんでした本当ごめんなさい。その令月って子、責任もって実家に帰しますから」

って、謝られたら。

こちらとしては、凄く困る。

国際的観点から見れば、その方が良い。と言うか、正しいのだが。

令月個人を守ることを考えたら、いっそ突っぱねてくれた方が良い。

下手に、向こうに折れてもらうと困るのだ。

向こうが折れるなら、こちらも折れなきゃならなくなるから。

令月を、返さなきゃならなくなるから。

そもそも、令月の国籍はジャマ王国にある。

令月は、本当はジャマ王国にいるべき人間なのだ。

だから、ジャマ王国が令月を受け入れると言い出したら、こちらとしては困る。

令月をあの国に返して、良いことなんて何一つない。

まず、言った通り実家に帰す保証なんてないし。

そもそも令月は、その実家から売られたのであって。

実家に戻ったところで、令月に居場所はない。

そして間違いなく、令月が国境を越えた時点で、『アメノミコト』が黙ってない。

奴らは執念深く、令月を追い、そして連れ戻すだろう。

令月は絶対に、ルーデュニア聖王国から出してはいけないのだ。

向こうに折れてもらう訳にはいかない。だから、こちらから口出しはしない方が良い。

向こうが口出ししてくるなら、派手に応戦してやれば良いが。

あくまで、火蓋を切るのはジャマ王国からでなくては。

令月の身が危ない。

「成程…。黒月令月を守る為、ですね」

「…フユリ様。ここはどうか、私の顔を立てて…ご配慮願えませんか」

国を守る為、国の体面を考えるなら。

大いに批判してやれば良い。ジャマ王国を名指しで、「この野蛮人共め」と喧嘩を売れば良い。

そうすることで、もしかしたら、第二の令月、第三の令月となるかもしれない、ジャマ王国の子供達が救われるのかもしれない。

でも、それだと令月は救われない。

その逆。

ルーデュニア聖王国はあくまで、ジャマ王国のことはジャマ王国で勝手にやってくれ、と知らん顔をして、向こうが何か言ってくるまで無視し。

特に何も言ってこないなら放置、言ってくるなら応戦、という形にすれば。

少なくとも、令月は救われる。

どちらが正しいのだろう。

令月一人を犠牲にしてでも、正義を貫くべきなのかもしれない。

しかし、令月一人をも救えないのに、他の誰かを救ったとして、それは正義と呼べるのだろうか。
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