神殺しのクロノスタシス2
「…あ、でも」

と、令月。

「僕、力魔法しか使えないよ?」

確かに、それはイーニシュフェルト魔導学院の生徒としては致命的。

アトラスみたいな例もあるが、あれは一応交換留学ということになっていたし…。

「魔導適性もないし。それでもイーニシュフェルトに入れるの?」

座学の授業は、分かってる振りして座っとけば良いが。

実技ともなると、そうはいかんからな。

「僕が主に実技担当ですからね。令月さんだけ実技授業免除、にでもします?」

「特定の生徒だけ、実技免除は学院の規律に反します。この時期に編入学というだけでも、特例中の特例なのに」

それぞれ、ナジュとイレースの意見である。

うん、難しいところだ。

まさかイーニシュフェルトにまで来て、ライターと水風船で実技を乗り切る訳にもいかず。

「それなんだけどね、私思ったんだよ」

と、シルナ。

その老骨な頭で、何を思ったんだ?

「令月君って、力魔法得意でしょ?」

「得意って言うか、それしか使えない」

「じゃあ、ちょっと試してみたいことがあるんだ」

…試してみたいこと?

「よっ、と」

シルナは杖を取り出したかと思うと、空間魔法で俺達を異空間へと転送した。

「何?これ」

「なんちゃって稽古場」

「ふーん…。空間魔法って便利だね。これどうなってるの?」

ぺたぺた、と異空間の壁や地面を触ってみる令月。

それがどうなってるのか習うのは、もう少し先だな。

空間魔法は、ちょっと特殊だから。

使える人間も限られる。

「で、試してみたいことなんだけど」

「何?」

「令月君が言ってた、ライターや水風船で乗り切った、っていう作り話を思い出してね、ちょっと思い付いたんだ」

「?」

「はい、これ」

取り出したのは、本物のライター。

何の変哲もない、魔導適性の有無に関わらず、カチッとやればシュボッとちっこい火がつく、何処にでもある普通のライター。

「これをどうするの?」

「普通に火、つけてみてくれる?」

「はい」

カチッとやると、シュボッと火がついた。

ちっこい火。

「これからどうするの?」

「これに、力魔法かけてみてくれる?」

「これに?」

「この小さい火に、力魔法かけるの。そうしたら、もっと大きな…炎魔法の再現が出来るかなって」

成程。

アトラスの大剣を、シュニィが力魔法や炎魔法で強化していたが。

あれの応用だな。

「刀に力魔法をかけられるなら、形のないもの…火や水や雷、物質じゃないものにも力魔法で強化出来るんじゃないかなと思って」

「成程、やってみたことはないけど…」

「物は試しだよ、一発ドカンと、やってみてくれる?」

「うん、分かった」

令月は、小さなライターを片手に持ち。

もう片方の手で、力魔法をかけた。

瞬間。

惨劇が訪れた。
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