神殺しのクロノスタシス2
…まず、彼女が一番求める情報から。

「…動き出しましたよ。シルナ・エインリーが」

「…」

一気に、彼女の顔が険しくなった。

元々険しい顔が、余計険しい。

ますます別れ話っぽくなってきたな。

「勿論、相棒の羽久・グラスフィアも一緒です」

「…それはそうだろう。あの男が羽久・グラスフィアと離れるはずがない」

一人ずつなら、何とか手の打ちようがあったものを。

あの二人がセットとなると、やはり…取れる手段は限られる。

「てっきり、シュニィ・ルシェリート辺りが動くかと思っていたが…」

「あぁ…。それですけど、朗報がありますよ」

「朗報?」

「シュニィ・ルシェリートは今回の件、一切関わってこないと思って良いでしょう」

「どういう意味だ」

「妊娠したそうですよ。第二子を」

「…」

まぁ、僕は女じゃないから?

悪阻とか安定期とかよく知らないんだけど。

アトラス・ルシェリートの性格からしても、身重の妻を無理矢理動かしはしないだろう。

むしろ部屋に閉じ込めて、出来る限り安静にさせておくはず。

だから、シュニィ・ルシェリートの介入については、心配要らない。

「…呑気なものだな。こんなときに子供など…」

「良いことじゃないですか。実際シュニィ・ルシェリートは脅威の一つだったんですから」

その脅威が、一つ減った。

おまけに、人質候補が増えたと言っても良い。

妊娠中のシュニィ・ルシェリートを人質に取れば、なかなか有益だと思わないか?

まぁ、あくまで手段の一つに過ぎないが。

「つまり、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアは『禁忌の黒魔導書』の調査にかかりきり、という訳だな?」

「さすがに本体は学院に残ってますけどね。分身の数はだいぶ減ってます」

今まで教師として使っていた分身を、調査の方に回しているのだろう。

「お陰で、聖魔騎士団魔導部隊から、大隊長が派遣されてきましたよ」

「何?大隊長クラスの魔導師が?何の為に?」

「分身が教師やってる余裕なくなったんで、その補充の為ですよ」

「聖魔騎士団の魔導師が、教師代わりか?笑わせる…」

聖魔騎士団の魔導師は、シルナ・エインリーの教え子…。

もとい、手駒だからな。

シルナ・エインリーが頼めば、何でもホイホイ請け負うだろう。

「本当に笑えますよ。シルナ・エインリーの手駒達は」

全く、よく調教されていることで。

「彼の為なら、命を落とすことも厭わないそうです」

「…シルナ・エインリーの過去を、奴らは知っているのか」

「そうみたいですね」

「…」

彼女は、怒りのあまり拳を強く握り締めていた。

ますます別れ話感。

言っておくが、彼女を怒らせたのは僕じゃない。

シルナ・エインリーと、その手先達の愚かさ故だ。
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